みちのく旅行記

みちのくです!仕事の休暇はよく旅してます!

オリジナル物語「電車と二人」五章 あみ風


五章 あみ風

美絵は母親から淳の場所を聞いて、すぐさま青葉山に向かった。
でも道が分からなかったので近くの交番で道を聞く事にした。
「この道を真っ直ぐ行って、青葉病院の看板がある信号を右に曲がるんだ。そのまま真っ直ぐにいけば青葉山に行けるからね」
「お巡りさん、ありがとう」
美絵は急ぎ足で青葉山を目指して向かう。

たった一人、呆然として考えてる淳はベンチで寝転んでいた。
「…はぁ」
ため息ばかりついて、結果的に進路は全く決まらない。
時計を見れば現在1時だ、昼食も食べてない淳はどこかで食べようか迷ったりするが、やはり進路で頭を悩まされる。
「やりたい事…でも何があるんだ?」
いろいろ探して見たりしたが、淳がやりたい仕事は一つも無かった。
一つ気づいた事と言えば、あの家をどうするか。
「もし将来…誰かと結婚したとしたら、今の家にお嫁さんも来る訳だよね。そうなれば、美絵とお母さんはどうするのだろうか…」
その時だった。
「淳君〜〜‼︎」
頂上への階段から声が聞こえた、美絵だった。
居場所を知って急いで来たのか、すごく息を切らしていた。
「美絵?どうしてここに…」
「お母さんが青葉山にいるって聞いて、駆けつけてきたのよ」
「でもどうして…」
「何で私には言わないで出かけたのよ…」
「いや、お母さんにだけ言っておけばいいと思ったから」
「私にも言ってよ‼︎」
「…ごめん」
美絵に伝えなかった理由は特になかった、もし美絵の母親がいなければ普通に美絵に伝えるつもりだったらしい。
「…それで、ここで何してたの?」
「昨日北斗達が言ってた事覚えてるでしょ?進路の事で考えてるのさ」
「淳君は将来どうするの?」
「それが決まらないのよ」
仕事は何でもやろうと思えばやれる、でもそれじゃあ意味がない。
やりたい仕事を早く見つけたい焦りが自分の判断を鈍らせてしまう淳。
ふと淳は思った。
「美絵は将来、どうしたいとか考えてる?」
「わ…私⁈」
急に聞かれて焦る美絵、でも少し考えると。
「私は…幸せなら、それでいいと思ってます」
「ん?どうして敬語になったの?」
「あ、いや。よく分からないけど…何か敬語になっちゃった…」
「それで、美絵はどんな事が幸せなの?」
「うーん…今みたいな生活が、幸せかも」
「つまり、普通に過ごしていれば幸せって事?」
「多分そうかも。淳君は幸せってどんな事が幸せ?」
淳も聞かれるとは思わなかったので、よく考えて出した答えは簡単だった。
「僕も今みたいな生活が一番幸せかもしれない。もし美絵とお母さんが家に来なかったら、こうして話す事もなかった。前にも言ったけど、僕の両親はいないから家族の暖かさとか分からなかったんだ、でも今はそれが当たり前のようにある、こんな幸せは普通には作れない」
でも、それと同時に両親の事を思ってしまうのだが、淳はその事は話さなかった。
「今みたいな生活を続けたいと思わないの?」
「分からない、幸せはいい事かもしれないけど、それを続けたいと思えないんだ」
正論な答えだ。
幸せはいつまでも続かない、だから今みたいな生活を今後も続けようとも思えないのだ。
「美絵はさ、いつかは誰かのお嫁さんになったりするのでしょ?」
「え…うん、まあいつかは誰かのお嫁さんになるのかもしれないわ」
「それで幸せって感じれると思う?」
「分からないわ、過ごし方や思い方でたくさん幸せは感じていられるのかもしれないけど」
結果的に答えは見つからず、淳と美絵はそのまま家に帰る事にした。

次の日、普通に学校の教室でグッタリしている淳に北斗が話しかけてきた。
「なあ淳、進路の事決まったか?」
「全然だ、全く決まらん」
北斗は呆れた顔でやれやれとしてくるが、やりたい事が見つからないし、目的もない。
「目的なら一つくらい作れるだろ」
「簡単に言うな」
「いや、淳の今の状況なら簡単だろ?」
「どういう事だ?」
淳はテーブルに置いてある水筒を飲む。
「そりゃ淳が美絵ちゃんと結婚すれば目的が一つ出来るじゃん」
「ブファ⁉︎」
思わず口の中のお茶を吹き出した。
「おい汚いな、お茶を無駄にするんじゃないぞ」
「そうじゃないだろ…」
話をはぐらかされて淳はちょっと機嫌を損ねてる。
「俺と美絵が結婚?そんな事ありえる訳ないだろ」
「うわ…お前、まさか美絵ちゃんを見捨てる気かよ」
「そうじゃないわ」
「もうあんだけ好かれてるのにか?この前お前の家に居た時も美絵ちゃんはずっとお前の側にいたじゃん。オマケに服も引っ張られて、だからロリコ」
「それ以上言うなら星にするぞ」
「スンマセン」

「とにかく、お前は美絵ちゃんがいるじゃん。それだけでも一つ大きな目標になるだろ」
話が全く分からない淳は「どういう事だよ?」と問いかける。
「話は長くなるけどさ、お前が美絵ちゃんの事を思ってるなら、それに見合う男になりたいと思う目標、そして将来の結婚の事を考えてたくさん働かないといけない目標、美絵ちゃんが好きな物を買ってあげたいと思う目標、いくらでもあるだろ」
「言っておくが、俺は美絵と何の特別な関係もないからな?」
「まあ、とにかく目的はそれくらいだ。どのみちお前は他の道はないのだから、よく考えろよ」
そうして北斗は自分の席に戻っていく。

なんで美絵の事で北斗があんな事を言うのか。
目的が美絵の事にすれば頑張れるのだろうか?そもそも美絵と結婚なんて考えた事もない。
「目的かぁ…」
美絵は昨日、幸せならそれでいいと言ってたけど、もし結婚したとして、美絵を幸せに出来るか?
そんなの無理だと思う、僕はそこまで美絵を幸せにしてあげる事は多分出来ないだろう。
考えたら意識してしまう、この事はもう忘れよう。
僕はそのまま普通に授業を受けた。

お昼、僕は帰ってる最中だった。
僕の帰り道には美絵は来ないし、たった一人で駅にトボトボと歩いて行く。
「淳君!」
声と同時に突然背中が重くなった、美絵が背中に乗ってきたのだ、いわゆるおんぶと言うものだ。
いや、そうじゃない。
「どうして美絵がここにいるの?」
「決まってるでしょ、一緒に帰るためでしょ」
最近美絵の甘えが酷くなってるのは気のせいだろうか?
聞いたところによると、定期の範囲内だからどちらの駅から乗っても同じなので、一緒に帰ると言う事になった。
どのみち家は同じだから、安全性を考えれば一緒にいる方がいい。
「ところで淳君、昨日考えてた進路の事は決まった?」
「ううん、まだ決まってない」
一応大学の資料とか見たり、就職先の求人を見たりしたけど、これと言った物は無かった。
青葉高校の求人は思った以上にある、特に目的意識を持った人は大手企業を目指す事も出来るくらいレベルは高い。
でもそれは目指す事があればの話、無いと行ける場所もあまりないのだ。
ふと北斗が言ってた事を思い出す、美絵の見合う男になる目標とか何やら言ってた。
そんなので仕事なんて見つかるのか…と思えるなら、美絵の事を…。
と考えた瞬間、顔が赤くなり美絵から顔をそらす。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
何でもない事はない、むしろ変に意識してはダメだ。
北斗、明日覚えてろ。
そう思って気づけば駅に着いていた。

ある物は思う、たった一人の少年にもう一人の少女が来てから賑やかになっている事を。
それを誰より喜んで見ている、いつも使ってくれてる少年、そしてこれから使ってくれる少女。
だけど私はもう長くない、何十年もこの町で過ごしてたくさんの笑顔を見せてもらった、きっと今回も少年は幸せになるだろう、それで道が開けてほしい。
そう思う物は、言葉は伝えられなくても、神に願うだけは出来る。
神様はその少年に新しいきっかけを作ってくれた。
ある物は、少年はあの少女がいる事で新しい道が出来ると思う。
長くない時間を、こうして過ごせて幸せだったと、ある物は思った。
命もない機械が、一人の少年の幸せを願っていたのだ。

気づけば夜、あれから普通に家に帰って僕は久しぶりの宿題をしていた。
そんなに多い量じゃなかったので、宿題は夕方あたりで全て終わらせた。
暇を潰すかのように、自分の部屋にあるゲームを適当にやってる、そして気づけば夜だった。
美絵も同じように宿題に集中している、こう考えれば美絵が甘えて来ないのが少し寂しく感じる。
夕食も食べて、お風呂も入ってようやく寝ようとすると、毎度美絵が布団に入ってくる。
前にエアコンが壊れてる事を言ってたが、思った以上に修理が早く終わったので、美絵の部屋は普通に暖房が使えるはずなのだが、何故か僕の部屋で必ず眠る。
そして僕が移動しようとすると服を引っ張ってくるので、観念して一緒に寝る事にした。
そしてもう一つ不安なのは、この事に美絵のお母さんは気づいているはずなのに何故怒らないのか。
そればかりを気にして眠りにつく。

こうして平和かと思われた日常は、ある日突然崩れる。
それは一週間後の土曜日、この日は北斗達と出かける事になっていた。
もちろん美絵も一緒だ、行くと言った瞬間に「私も絶対行く!」と言って、もう泣いて誤魔化すまで言ってきたので、仕方なく連れてきたのだ。
「えへへ〜」
「甘い自分も情けない…」
「まあまあ、どうせなら人数は多い方がいいじゃんか」
「女が私一人なのは心細いし、ちょうどいいわ」
「北斗や沖は分かるけど、何で永瀬がいるんだよ…」
「沖の監」
「はいはい、分かってますから」
こんなゴタゴタな会話からどこへ行こうとか、何しようとかの会話になる。
今日は北斗や沖と市街で遊ぼうと言う事になっている。
青葉地区から外に出ると、最初の地区は雫市となっている。
雫市は青葉地区に比べると大きな町になっている。
雫市の交通に入れば、鉄道の本数や特急もあるので便利である。
そこからなら大都市のミカン地区や麻矢市などにも行き来可能だ。
無浜から電車で揺られる事20分、雫駅に着いてそこから特急に乗り継いでミカン市に向かった。
「これからどこに行くの?」
美絵が謎めいた顔をしながら聞いてきたので、僕は「楽しい所さ」と言って誤魔化した。
確かにこれから行くのは楽しい所である。

ミカン市は新幹線が通る程の賑わいを見せている。
ミカン市を中心に商業施設や住宅が集中している、そこから少し歩けば好楽施設などもあるので遊ぶ場所もある、そして好楽施設の中で最も凄いのは「オールパレードシティ・ミカン」と言う施設だ。
この施設ではあらゆる遊び場が合体した施設なのだ。
野球やゴルフ、スキーやスケート、スポーツ系からゲームセンター、今で言うアニメの専門店などなど、いろんな趣味が揃っており、それをこの施設一つで楽しむ事が出来るのだ。まさに遊園地の総合場だ。
入場料は一人7000円(小学生以下は4500円)と少し高めになっているが、ミカン市の土地の高さと施設の規模を考えれば当たり前かもしれない。
今回はそのために節約してお金を使っていたのだ。
「美絵の分が増えて14000円っと…」
「…」
「ん、どうしたんだ?永瀬」
財布を開けて永瀬は固まっていた。もしかして。
「足りないのか?」
「だ…だって、こんな所に来るなんて思っていなかったんだもん」
永瀬は半泣きでそう告げる、すると沖は一人勝手にチケットを買いに行く、そして戻ってくると沖の手元には二枚のチケットがあった。
沖は迷う事なく永瀬に一枚のチケットを渡す。
「え…沖、これ…」
「使え、春香。お前だけ遊べないのは見てられん」
沖は相変わらずクールにそんな事を言う、本当に元不良なのかよと思うくらい備えが良すぎる。
永瀬は沖からそっとチケットを受け取ると、穂を赤くして大切そうに「ありがとう」と告げた。
二人はもう幸せすぎて、見てるこっちは泣けてくる。
「二人共熱い愛だねぇ〜、沖も今日は永瀬が来る事を見越して多めに資金持って来たんでしょ〜」
おい北斗、今ここでそれを言ったら…。
そして時すでに遅し、気づけば北斗は数百メートル先の壁に張り付いていた。
僕も同じように、美絵の分のチケットを買ってきて、それを美絵に渡した。
「はい、美絵」
「あ、ありがとう」
美絵も今回みたいな時はとてもご満悦みたいだ、何はともあれ機嫌が悪くなくて助かる。
そんなやり取りがあって僕らはオールパレードシティ・ミカンに入場するのだ。

入場ゲートを過ぎれば、正面には噴水があって分かれ道になっている。
右に行けば野球やサッカーのスポーツ系広場、左はゲームセンターや遊園地などの広場、正面は様々な趣味が集まったオールパレード広場。
どちらから行こうか迷ったりするが、行く順番はあらかじめ決めてある。
最初はスポーツ系広場から行く事にしてある、沖が体を鍛えておきたいと言うので先にスポーツ系から遊ぶ事にしておいた。
沖と永瀬はサッカーコーナーに向かう、北斗は「スケートしてくるぜ」とか言ってスケートコーナーに行った。
残された僕と美絵はスキーコーナーに行く事にした、美絵がスキーをやった事がないのと、やってみたいと言うので行く事になったのだ。
スキーはあまり得意ではないが、普通に滑れるようには最近なった。

スキーコーナーはかなり広くて、例えで言えば東京ドーム2個半くらいの大きさと広さだ。
休日だけに人は多い、僕らはレンタルで借りたスノーボードなどを装着して準備をする。
ちなみに雪は寒い地域から持ってきたり、作ったりしている。
「じゅ…淳君?これどうやって付けるの」
スキー経験がない美絵は今日が良いきっかけとなるだろう。
でも準備が出来て立ち上がった美絵は勢いよくずっこけた。
これには笑いが堪えられず、美絵の前で大爆笑してしまった、それを見た美絵は悔しかったのか僕の耳を引っ張り「笑うな〜‼︎」と半泣きで言ってくる。
何とも分かりやすい。
少しずつ美絵に滑り方を教えていき、短時間で普通に滑れるようになった。美絵は覚えが早いのか、思った以上に上達が早いのでビックリした。
「すごい…」
美絵はすっかりスキーにハマってしまって、ゴンドラで何度も上から滑ってくる。
時にはジャンプしたり、回転したりと大技を勝手に決めてしまう、周りが美絵に目を向けてしまう…そして平然と美絵は僕に寄ってくる。
「スキーって楽しいね♪」
いやいや美絵さん、あなた下手すればスキー選手になれるだけのスキルをお持ちかもしれないから、平然と楽しいとか言えるレベルじゃない。
いろいろな疑問が横切り、それを言葉にすればキリがないので口にはしなかった。
スキーだけで2時間も時間が潰せた、ありえない美絵のスキルを私は発見した。

その頃、永瀬や沖はご満悦そうにサッカーを楽しんでいた。
いや、もう楽しむレベルとは大違い。
沖はサッカーの試合コーナーで知らない人が集まり、チームを作って試合をするコーナーにいたのだが、そこで沖の運動神経が何度も敵のゴールネットを揺らした。
その姿には敵のチームは唖然とするしかないのである、沖は練習のつもりかもしれないが、実力はサッカー選手並である。
もしかするとサッカーチームからのオファーがあってもおかしくない。
そんな沖とは別に、永瀬はベンチから沖を見てるしかなかった。
女子サッカーは元々マイナーな為か、この場所には女子サッカー用のコーナーは作られてない。
そして永瀬は頭は良くても身体能力はかなり低い、そのためベンチから沖を見てるしかなかった。
試合を終えた沖がベンチに帰ってきた。
「全く、体が鈍ってあまり動けなかった」
とは言いつつも、今回8ゴールも結果を出した沖の言葉がこれだ。
「あんたね…8ゴールもして体が鈍ってるって普通言うの⁈」
「だって実際にそうだし、下半身の反応が前より鈍いからいろいろ苦労したんだぞ?」
「はぁ…こんな人と一緒にいるとか思われたら恥ずかしいわ…」
そして何も出来ないのが悔しい永瀬であった。
「なあ春香」
「名前で呼ばないで」
「これから遊園地の方に行こうと思うが、いいか?」
「え…でも沖、あんた今日は体を鍛えたいって言ってたじゃない」
「体はいつでも鍛えられる、それにお前が何も出来ないのは見てる方としては痛々しいんだよ」
「…バカ」
「ん?何だって?」
「何でもないわ、沖に私は任せるから」
強気に言う永瀬ではあるが、実は心の中ですごく喜んでいた。
沖が自分に気を使ってくれてる事が嬉しくてたまらないのだ。
そして2人は遊園地のコーナーに向かった。

僕と美絵はスキーを終えて、オールパレード広場に向かおうとしてる途中だ。
北斗の後ろ姿が見えたので声をかけようと思ったが、その隣に…もう一人いる。
よく分からないが、見た感じだと髪はロングで長いから女性だと思う、いやそれ以前の問題だ。
北斗がどうしてあんな女性といるんだ、そして賑やかに話して北斗は照れている。
「あれって…北斗さんだよね?隣に誰かいるけど、誰だろう」
どうやら美絵も気づいたらしい、気になってしょうがないので北斗に近づいて驚かせるようにしてみた。
「おぉう⁈なんだよ淳か、脅かすなよ」
「北斗、お前はこれからどこに行くのだよ」
「ゆ…遊園地コーナーだ」
もうこれで完全にどんな状況か分かってしまった、一人で北斗は遊園地コーナーに行く訳がないと僕が一番よく知ってる。
「あの…北斗さん、こちらの方は?」
北斗の隣にいる女性が尋ねるように言ってくる、女性の顔を見て思ったのだが…どこかで見た事ある顔だった。
「あ、こっちは小田原淳と安井美絵ちゃん、どちらも僕と同じ学校の友達です」
「どうも、よろしくお願いします」
ご丁寧にお辞儀もしてすごくしっかりとした女性。
「淳、この人は「亜美風 沙彩(あみかぜ さあや)」さん、スケートをしてる時に滑る練習を手伝ってくれたんだ」
亜美風沙彩?なんか知ってる…どこかで、ん?
「あぁ‼︎⁉︎」
思い出したように大声を出してしまった、奇跡的に回りには人はいなくて助かった。
「亜美風沙彩さんってまさか!去年オリンピックで金メダルを取って一躍有名になったあの亜美風沙彩さん⁈」
「え、どゆこと?」
北斗がポカンとした顔で答えるが、そんな事はどうでもいい。
亜美風沙彩さんとは、この地区のスケート選手で去年にオリンピックで華麗な演技をみせて金メダルを取り、スケートの魔術師と言われている。
日本のスケート界では有名であり、次回のオリンピック優勝候補にも入っている。
「私の事をご存知なのですね」
「それは有名ですからね、でも有名な亜美風さんがどうしてこんな場所に」
「ちょっと息抜きにと思って滑ってたのですよ、そしたら北斗さんが何度も転けるのを見ていて」
北斗、スケートやると言っておいて滑る事も出来ないのかい。
「気づけば亜美風さんに滑りを教えてもらってた訳よ、でも亜美風さんがそんな有名人だとは知りませんでしたよ」
何か北斗と亜美風さんが妙に良い雰囲気なのがムカつくが、邪魔をしてしまうと悪いと思い、北斗に別れを告げてオールパレード広場に向かった。
北斗に新たな出会いができた事で、平和な日常は崩れたのだった。

五章END