みちのく旅行記

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オリジナル物語「電車と二人」六章 オールパレード


六章 オールパレード

かつて人はどこかに沢山の趣味が集まる場所を求めていた、それを叶えるように作り上げたのがオールパレード広場。
広場に着いて辺りを見渡せばいろんなコーナーがある、アニメや二次元、乗り物、様々なコーナーが揃えてあり、まさに楽園だった。
美絵と僕は乗り物コーナーの模型展に来ていた。
そこにはプロの職人が作り上げたミカン区の都市を再現した模型が展示されていた。
駅からビル、そしてこのオールパレードシティ・ミカンの建物も再現されてる。
「すごい、こんなの作れる人っているんだ…」
美絵は興味深々に手前のガラスに手をつけて見ていた。
この模型を作るまでの光景をまとめたコーナーがあった、そこは設計から製作までの工程がずらりと展示されている。
職人があらゆる工程で削ったり切ったり、そしてこの周辺の写真を見て更に忠実に再現するまでの職人の真剣な顔は写真を通しても伝わってくる。
製作時間はおよそ2カ月、職人が汗水たらして作り上げたのがあの広くて大きく、でも小さい模型だった。
「この小さい模型に、あれだけの苦労をつぎ込んでいたんだ」
僕はこの模型に少し興味を持ってしまった。
ふと気づけば30分も経っていた。
「淳君、他の所もいこうよ」
美絵も飽きたみたいなので、僕らは場所を変える事にした。

遊園地なんて誰かにとっては無縁な場所でしかない、でもそれは何か特別でない限りの事だ。
成績優秀、運動神経抜群なら尚更の事だ。
沖は永瀬と一緒に遊園地で遊んでいた。
すでにコーヒーカップやジェットコースターなとばクリアしているが、ここで空気を読まずに本気を出してしまうのが沖である。
コーヒーカップでは沖が本気で回してから永瀬は酔い気味に、そしてトドメを刺すようにジェットコースターに乗ったのだ。
永瀬の事を読めない沖ならではのプラン?だと思う。
そして永瀬はベンチで横たわるように気絶していた。
「おい、大丈夫か」
「大丈夫な訳ないでしょ……死ぬわよ…」
永瀬としては楽しい気持ちはいつの間にか我慢となっていた。
沖はジュースを買ってくると言ってどこかに行ってしまった。
この間に永瀬は考えていた、自分が沖に素直になれない事を。

沖と私が出会ったのは高校2年の秋だった。
後期の級長に二人が選ばれるのだが、そこで選ばれたのが沖と私だったのだ。
最初は普通に級長としての仕事しか考えてない二人だったが、関係が一変したのが冬だった。
夕方、級長の二人は教室の後片付けをしていた。
「そっちの黒板は俺がやるので、永瀬さんは机を揃えて下さい」
「分かりました」
これが昔の沖、そして昔の私。
小さい頃から政治家だった父の話は沖も知っていて、沖は少し私を避けるような感じでもあった。
この時はまだ私も誰に打ち解けてない時で、いつも一人で帰る日々だった。
級長の仕事は終わって帰ってる最中だった、沖も私と同じ帰り道だから途中までは一緒だった。
何もない道をひたすら歩いていけば車がよく通る場所まで来た。
私はこの時、一度死にかけたのだ。
帰り道で何も考えずに歩いていたら、赤信号を無視した車が突っ込んできたのだ。
痛い、そして死ぬと悟ったのだ。
気づけば痛い、いや…痛くなかった。
何で痛くないのかを確認したら、私は沖に抱かれて倒れていた、そした赤信号を無視した車はそのままどこかに行ってしまった。
状況的に説明すると、沖が私を助けてくれたのだ。
「馬鹿!よそ見していて死ぬ気か!」
沖のその言葉で、私はどうしていいか分からなくなってその場から逃げ出してしまった。
家に帰って私は部屋に閉じこもり考えていた、今まで批判されてきた私を、沖は助けてくれたのだ。
こんなに惨めな私なのに、そして沖も避けるようにしてたのにどうして助けてくれたのか。
しかもお礼も言わずにそのまま逃げてきたのだから、常識的には失礼な態度を見せてしまったのだと思う。
明日お礼だけでも言おうと思って私は眠りについた。
そして次の日、いつものように教室で沖は小田原達と話してた。
話しかけにくい理由は一つだけある、その時の私は沖を恐れていた。
不良集団に入ってた沖はやはりみんなも避けてしまうくらい恐れられてるのだ、でも私も引き下がりたくない。
勇気を振り絞って私は沖に話しかけた。
「朝倉さん、ちょっとお話があるので廊下までいいですか」
「ん?あぁ、ちょっと待ってて下さい」
沖はしばらくして廊下に出てきた。
「何ですか、話って?」
「その…昨日は、ありがとうございました」
「あぁ、別に気にしないで下さい。俺は当たり前の事をしただけですから」
沖はそう言って平然として笑っているが、私はそれ以上に気にしているのだ。
どうしてこんな私を助けてくれたのか。
「…何で、こんな私を助けてくれたのですか」
「はい?」
「私の事情は以前に話しましたよね?そんな事情を持って避けられてる私なんかをどうして助けたのですか?」
私は沖に必死に問いかけた、このモヤモヤする感じを早く断ち切りたい。
でないと気にしてばかりで仕方ないからだ。
「とは言ってもなぁ…助けるのは別に当たり前じゃないのかな?俺の事情も知ってるのですよね?元々不良集団と絡んでいて、そんな奴がどうして学年トップで級長の仕事までしているか」
「えぇ、普通ならありえないですよね」
「俺はもう不良集団との関係は一切ないし、もう不良としての行動もしない。ただ普通に過ごしたかった、だから永瀬さんを助けた…と言えば理由になるのだろうか」
「全然理由になっていません」
敬語が苦手なのか、沖の言葉はたまに敬語がなかったり、主語が外れたりして内容がよく分からない。
「今更さ、過去を責めたり掘り返したりしても何の意味もない。永瀬さんはそう思ってるだろうが、俺は当たり前の事をしたまでだ」
沖の言ってる事がこの時の私には理解出来なかった。
意味も理由もない助けは本当に世の中に必要なのかと。
「私には理解出来ないです、あなたの考えが…」
「まあ気にするなよ、「春香」」
この時、沖は初めて名前で私を呼んでくれた。
「な…⁈し、下の名前で呼ばないで下さい!」
「もういいじゃん、どうせ今後も長い付き合いで過してかなきゃいけなくなるんだ。苗字で呼びあっても堅苦しいだけだろ」
もう沖は敬語すら使わなくなった、確かに堅苦しいかもしれないが、私にとってはそれくらいの距離が丁度いい。
たとえ誰かを信じれても、私はそんなの関係ない。
「おい?春香?」
「だから私を名前で呼ばないで!」
私は胸にしまい込んでいた怒りを沖にぶつけた。
すると沖は動じる事もなく、ただ笑顔を見せていた。
「何だ、春香も怒る時はあるんだな」
自分もハッと思った、確かに今私は沖に対して怒った、でもそれは私にとって久しぶりの出来事だった。
怒る事は普段してなかったし、最後に怒ったのは小学校の頃だと思う。
沖に調子を狂わせられて、私は久しぶりにモヤモヤした気分ていた。
「春香?」
「…うっさいわよ!沖!名前で呼ぶな〜‼︎」
私は沖に蹴りや殴ったりした、こんな事は初めてで、心の底で何かが吹っ切れたのだった。
その様子を見ていたクラスの人達は笑っていた、私と沖のやり取りが面白いのだろうか、でもそんなのは関係ない。
これがきっかけで、それ以来私はクラスに溶け込む事が出来た。

沖のおかげで何もかもが変わって、何かあるといつも助けてくれたのはいつも沖だった。
私は出来る事なら沖も一緒にいたい、沖の事を出会ってから好きになってしまったのだ。
「おい、春香!」
「ヒャ⁉︎」
気づけば沖が目の前に立っていた。
私は沖がジュースを買いに行ってる間、眠っていたらしい。
「ほら、ジュースだ」
「あ、ありがとう…」
思い返せば、沖のおかげで変わる事が出来た、でも素直になれないのはどうしてなのだろう。
遊園地で過ごす時間もあとわずか。
「おい、春香。最後くらい観覧車にでも乗るか?」
「観覧車…」
観覧車、よく小説やアニメとかでは恋愛のシーンでいろいろある遊園地ならではの乗り物。
ここで嫌だとか言ったら自分に負けてしまう、もう名前で呼ばれる事なんて気にしない。
「うん、行く」
たまには沖に素直でいたい、だから今日はたくさん楽しむわ。

気づけばもう夕方、淳と美絵はオールパレード広場を後にして遊園地に来ていた。
遊び疲れた美絵は少し眠たそうな顔をしている。
「美絵、眠いのか?」
「うん、ちょっと疲れちゃった…」
状況的に、淳の腕にもたれかかるような感じのままアトラクションを探している。
その時、携帯のバイブが鳴った。
北斗からメールが来ていて、《今日は先に帰ってくれ》と要件がきていた。
どうやら亜美風さんと一緒に帰るのだろうか?
まあともかく、残った沖と永瀬と合流しようと思った。
携帯で連絡を取ろうとするが、二人とも携帯に出ない。
何かのアトラクションに乗ってると思って、僕は沖に折り返し連絡をするように留守電を入れておいた。
美絵もだいぶ疲れてる、今乗れそうなアトラクションといえば、観覧車くらいだろう。
幸いにも観覧車はまだ混んでいない、今ならすぐに乗れる。
「美絵、最後に観覧車に乗る?」
「観覧車…うん、いいよ」
僕と美絵は観覧車に移動した。

今日はたくさん楽しんでもう私の体は疲れてる、眠たくて気づけば淳君の腕にもたれかかっている。
遊園地に移動したとはいえ、もう眠気もあって移動するのも一苦労。
そんな中で淳君は最後に観覧車に乗る?と提案してくれた。
淳君と二人きりの観覧車、私としてはすごく嬉しい事。
私は迷わず行く事にした。
そしてしばらく歩くと観覧車乗り場に着いた。
人はそんなに並んでいなくて順番はすぐに来た。
先に私が乗って淳君は後から乗った、隣同士じゃなくて向かいあった状態で。

美絵とこうして向かいあったのは電車の中以来、気づけばだいぶ高い所に来ていた。
僕は外を眺めて少し考えていた、今後の進路をどうするか、就職先をどうするかを。
「淳君」
美絵が僕の名前を呼んで来た。
「ん?何?」
「もしかして、また進路の事考えてたの?」
なんて勘の鋭い子なんだ、こっちの考えてる事は全部お見通しなのか。
「うん、まあ…」
美絵の顔を見てみたらちょっと寂しそうな顔をしていた、まるで自分が構ってくれなくて退屈してるように。
「淳君、隣に座っていい?」
「別にいいよ」
美絵が立ち上がった瞬間、観覧車が突然強風に煽られた。
観覧車が大きく揺れて、立ち上がった美絵はバランスを崩して倒れそうになった。
「危ない‼︎」
とっさの反応で、僕はバランスを崩した美絵を抱え込むようにして何とか倒れる事はなかった。
だが…現状がまずい状況になってしまぅている。
抱え込んだままそのままお互い硬直してしまっている、どうしようか判断に迷っている。
「じゅ…淳君…」
「あ…その、ごめん‼︎」
僕はすかさず美絵から離れて端の席に座り込む、美絵も顔を真っ赤にしながらゆっくりと僕の隣に座る。
気まずい雰囲気、とっさの反応とはいえ、やはり起こしてしまった事に対してすごく恥ずかしくなる。
観覧車も気づけば高く上がっていた、ここまでの時間は僅か1分半といった時間だ、あと半分で観覧車も終わってしまう。
「淳君、ありがとうね…」
「う、うん」
このままじゃ自分の精神が持たない、何か別の事を考えなければ。
今別の考えがあるとすれば、進路くらいしかない。
「ねえ、淳君。あのさ…」
美絵が少し真剣な顔でこちらをみている。
「私はね…」

淳君に倒れそうになった所を支えてもらったけど、すごく気まずい。
でも、そうじゃなくて…私は今のうちに伝えておきたい。
「ねえ、淳君。あのさ…」
淳君はどの進路に行っても、あの家から出るのだと思う。
それだけは私にも分かる、だけど…私だって。
「淳君はどの進路に進むか分からないけど、私は高校卒業したら…淳君と一緒にあの家を支える」
私はあの家が好き、もちろん淳君も好き。
でもそれ以上に、あの家に迎え入れてくれた淳君、そして家族としての毎日を与えてくれた淳君の為にも、私もあの家を支えたい。
淳君は私の言葉を聞いてずっと考えたまま。
突然の告白?みたいな形で伝わってるのかもしれないけど、淳君はどうおもってるのだろう?

淳は美絵から驚く事を聞かされて混乱していた。
美絵は確かにあの家を一緒に支えると言った、淳は意味を理解していなかった。
「美絵…今、一緒にあの家を支えるって…」
しかし淳が聞こうとしたら観覧車は既に下に着いていた。
観覧車の扉が開いて係員の人が誘導してくれる、僕と美絵はそのまま観覧車を後にした、結局聞こうとした事も聞けずに。

淳と沖達も合流し、一緒に帰る事に。
その電車の帰り道の途中、淳達はヘトヘトになって座席に座ったままグッタリしていた。
美絵と永瀬は寝ていた、淳と沖はまだ起きたまま。
「なあ、沖」
「ん?なんだ?」
淳は沖に今の自分の悩みを打ち明ける。
「俺さ、進路の事を観覧車で考えてたら、美絵が高校卒業を卒業したら俺と一緒に今の家を支えるって言ったんだ」
「良かったじゃないかよ、未来の嫁さん決定だな」
「そうじゃねえよ、俺は美絵の事…」

俺は美絵の事…あれ、どう思ってたんだ?
最初出会った頃とは違って、美絵の事はだんだん好きに…あれ、今自分は美絵の事を好きと思ったのか?
確かに美絵は家族同然の関係だ、親友としても。
でも好きなんて気づいていなかったし…。
「お前、美絵ちゃんの事が好きだったんだろ?」
沖が突然変な質問を言ってきた。
「今はまだ迷って気づいてないだけだ、それに…あそこまでして美絵ちゃんの事を守ろうなんてするのは、美絵ちゃんを守りたいからだろ?」
守りたい…?確かに俺は…美絵の家庭の事情を知って、すぐに助けたくなった。
「でも俺は、まだそこまで…」
「淳、進路は何がともあれ、美絵ちゃんの事は忘れるな。お前の後ろにはあの子がいるんだ。その事を踏まえて人生を生きろ。そうでもしないとお前は悩んでばかりだ」
答えになってないが、沖なりの答えなんだろうな。何となく言いたい事は分かったが、果たして今の自分にそんな役目が務まるのか?
疑問に思いながらも、沖はその後口を開く事は無かった。

ある機械は感ずいた、あの二人に何かが起こる事に。
それに感ずいた機械は自分の動力源であるエンジンを自らが勝手に起動させた。
まるで何かを伝えようとするために。
「おい!何でエンジンが勝手に起動したんだ!」

最寄り駅に着いて沖と永瀬と別れた後、淳と美絵は家に向かっている途中だった。
美絵は淳と少し距離を置いて歩いていた、さっきあのような事があって淳もお互いに気まずい雰囲気でいるのだ。
暗い道、お互いの存在がギリギリ確認出来る距離でスタスタ歩く。
その時だった、美絵の背後から2人ほどの影が美絵を捕まえる。
「きゃっ!なにを…」
美絵はそのまま気絶させられて、どこかに連れていかれた。
淳が美絵の声に反応して後ろを振り向くが、そこに美絵の姿は無かった。
「美絵…?」
淳は迷子になったのかと少し探すのだが、美絵の姿は見当たらない。
「美絵、美絵!どこにいったんだ!」
淳の考えは美絵が何者かに誘拐されたのかと考える。
「美絵!美絵〜‼︎」
淳は叫ぶが、美絵の声が返ってくる事はなく、返ってきたのは自分が叫んだ声だった…。

六章END