みちのく旅行記

みちのくです!仕事の休暇はよく旅してます!

オリジナル物語「電車と二人」七章 本心

だいぶ遅れてしまいました。今後ちょくちょく書いて出していくのでお願いします。
ではどうぞ!

七章 本心

家では平和なように美絵の母親が夕食を作って待っているのだか、二人の帰りが遅い。
「遅いわね…何かあったのかしら?」
その時だった、家の受話器が鳴り響く。
「はい、もしもし」
『美絵のお母さん!淳です!美絵が突然いなくなってしまいました‼︎』
「え…⁉︎」
美絵の母親は思わず受話器を手放してしまった。

淳はひたすら探す、駅前から通ってきた道を全て。
美絵は携帯も持っていなくて連絡を取ろうにも取れない状況。
淳は沖や永瀬に連絡して一緒に探してもらうように協力してもらう、数十分もしないうちに二人が合流。
「美絵ちゃんがいなくなったってどういう事⁈」
永瀬が慌てて来た。
「帰り道途中まで着いて来てたんだ、でもいつの間にかいなくなって…」
沖はある事に気づく。
「おい淳、お前と美絵ちゃんは一緒に帰っていたのだよな?」
「ああ、少し距離を置いてトボトボ歩いていたが、途中までは…」
沖はそれを聞いた瞬間、淳の顔を殴った。
それを受けた淳はその場に倒れこむ。
「沖⁉︎いきなり何してるの‼︎淳を殴って!」
「お前、美絵ちゃんを自分から遠ざけた状況でずっといたのか!ふざけるな!誘拐された以外に考えられないだろ‼︎」
淳はそれを聞いて唖然とする。
「お前が美絵ちゃんと離れないで帰っていればこんな事にはならなかったはずだろ‼︎いくらお前でもそれくらいも考えられないのか!」
淳は反論できない、自分が行った行動が大変な事態を招いたのだ。
事を急ぐように美絵の母親も合流し、すぐに警察に駆けつけ捜索願を依頼した。
でもそれにも時間がかかる。
何とかして美絵を見つけ出す方法を考えないと。
でも既に夜で捜索しようにも困難、どうすれば…。

俺はある事を思っていた、この周囲で誘拐をする集団がいるとするなら、心当たりはある。だが奴らとまた遣り合う事になるとはな…。
俺自身はあれでカタをつけたつもりだったのだが、未だに犯罪に懲りてないようだな。
携帯の連絡先に残る俺の黒歴史の部下達。
今はこいつらに頼るしかないのか。
俺は携帯からある奴に連絡する。
「もしもし、…久しぶりだな。…あぁ、少し面倒な事になってな。知ってる限りでいい、あの時仕留めた奴らのアジトがどこにあるか教えてくれ。…問題ない、お前らに迷惑をかけるつもりはない。………そうか、分かった。あぁ…突然すまないな。じゃあな」
あいつらに迷惑はかけるつもりはない、だが奴らも相当な人数を率いているはずだ。一筋縄ではいかないだろうが、やるしかない。淳、お前がいろいろ悩んでるのはよく分かってるが、たった一人の女の子も守れないで情けないと思わないのか。お前が美絵ちゃんに対する気持ちはその程度のものだったのかよ?
とりあえず、俺の部下が調べてくれるまで少し時間がかかる。今日はやむを得ないが…捜索は無理か。

僕は愕然としていた。美絵がまさか誘拐されるなんて思ってもいなかった。
沖にも殴られて、美絵の母親にも迷惑かけてしまっている。僕が進路なんかに悩んでいたから、美絵が誘拐された。
見守っていれば、一緒に帰っていればそんな事態は防げたはずだ。
今はもう後悔しかない、しかし探そうにもどこにいるか分からない。警察も捜索に出るとは言うが、簡単に見つかるとは思えない。
美絵の母親も今日はとりあえず家に帰ろうと言ってくれるが、一番心配してるのは美絵の母親なのに。
僕は黙ったまま家に帰る。

家に着いて玄関を開ける、いつも帰ってくる度に聞こえてくる一言が今日は聞こえない。
そしていつも側にいた一人の少女も今はいない。
淳はまっすぐ自分の部屋で布団に入り込む。
そこにもいつもは隣にいる存在がない、いつも暖かかった布団も今は寒い、寂しい、淳は改めて美絵の存在が大きい事に気づく。
自分ではそう思ってなかった気持ちが今はどんどん胸の奥から込み上がってきた。
「美絵…僕は、君の事…」
気づけば淳は涙を流していた、そして布団の中で泣き崩れる。
その時、扉が叩かれる音がした。美絵の母親だった。
「小田原さん、夕食をここに置いておくので、食べたくなったら食べて下さい」
そう言ってそのまま一階に戻っていった。
淳は涙を拭い、美絵の母親が持ってきてくれた夕食を食べる。
その夕食の中に一つケーキがあった、淳はそのケーキに目が止まった。
そのケーキは明らかに美絵の母親が作ったものではなかった。
淳はすぐに気づいた、これは美絵が作ったものだと。
だが何故ケーキを作っていたのか謎である。
淳は夕食を食べ、ある者に連絡をする。

沖の携帯が鳴る、相手は淳だった。
「もしもし、どうした?」
『沖、美絵を探すの手伝ってもらっていいか?』
「急にどうしたんだ?」
『美絵をすぐにでも探さないと、何かあってからじゃ遅いんだ、頼む…沖!』
沖も協力する事に関しては構わなかったが、それ以外に沖は淳が美絵に対してどんな思いで探すのかを確かめたかった。
「淳、お前は何の為に美絵を探すんだ?
『俺は…』
少しの沈黙の後、淳は言い出す。
『俺は、美絵の事が好きだ、だから助けたい。純粋に美絵がいない生活は無理だ、また美絵と一緒にいたい。だから…手伝ってくれ、沖!
沖はその言葉を聞いて、安心した。
やっと気づいたかと小さく呟いて沖は。
「今度の昼飯奢りな」
『あぁ、すまない』
沖と淳は電話ですぐに合流する事にして各人が動き出す。

淳は沖と合流して早速捜索を始める。
「沖、美絵がいる場所に心当たりはあるのか?」
「一応な、だがハッキリとした場所まではまだ分からない。俺の部下が今調べている」
淳は部下と聞いてキョトンとしている。
「昔俺が不良やっていた頃の部下だ、そして美絵を誘拐した連中はこの街の不良集団だ」
その時だった、沖の携帯が鳴る。
「もしもし…あぁ、…そうか、分かった。ご苦労だった。…いや、来るな。お前らが手を出す事はない。いいな?」
沖はそう言って携帯を切る。

俺は昔、不良をやっていた。殴り合いはお得意様、運動神経も良い方だと自覚している。不良集団で行動していた時は俺が幹部の下に居て、部下を動かしていた。
だが俺は争い事は好まなかった、でも不良でいる以上、争いは避けられない事たった。
そもそも不良になった理由は単純にふざける為だった。
俺はそれがくだらない事だと気付いたのはもう中学になってからだ。
「沖さん、顔が優れてないですぜ」
「あぁ、ちょっと考え事をしていてな」
部下は俺に忠実だった事もあって、集団からは信頼されていた。
だが俺は不良をやめた、幹部にも「俺は普通に戻る」それだけを言って立ち去った。
その時に部下は俺にこう言ってくれた。
「不良じゃなくても、いつまでも俺らは沖さんの部下ですぜ!」
あれ以来だな、俺の部下に連絡をしてないのは。

僕は沖にただひたすらついて行く、歩くうちに周囲の景色が変わり果てていた。さっきまでは住宅街であった場所も徐々に薄暗い通りに変わっていた。まるで良からぬ連中でも潜んでいそうな場所だ、そしてこの後起こりそうな事を考えていた、恐らく無傷じゃ帰れそうにもなかった事も覚悟していた。
「この先に進めば、最悪の場合無事に帰れないかもしれない、引き返すなら今のうちだ」
沖は最後の警告を言ってくれたつもりだが、こんな所で引き返すなんて無理に決まってる、美絵が捕まっているのに黙って見てられない。
「その様子じゃ引き返すつもりは無いみたいだな、自分の身は自分で守れ」
沖はそう言うと、左に曲がって建物の中に入っていった。そこはまるで廃墟と化した工場であった。

怖い…ここはどこ?
私は確か、淳君と一緒に帰ってる最中だったはず。
あれ、手が動かない、足も動かない、もしかして…縛られてる?目も真っ暗、これって目隠し?
周りからは何やら声が聞こえてくるけど、聞いた事もない声、誰?
自由に動けなくて私は怖かった。そしてしばらくすると目隠しを取られた。眩しい光…一瞬目が眩んだけど、だんだん視界がハッキリしてきた。
そして私の目の前には見知らぬ人が私を囲んでいた。
「ようやくお目覚めかい?お嬢ちゃん?」
何、この人達?
「兄貴も好きですねぇ、まさか本当に誘拐なんてしちゃうなんてw」
誘拐…?まさか、私…あの時に誘拐された⁈
「バレなきゃ何でもやっていいんだよ、あれ以来からデカイ行動は控えてたが、俺らはこうでもしないと気が済まないだろ?」
「まあ、兄貴ならやりかねないですねw」
私…これからどうなるの?
「で、兄貴。この女どうするのですか?」
「決まってるだろ、たっぷり楽しむんだよw」
「へへ、じゃあ早速…」
男の手が私に近づいてくる、嫌だ…触らないで‼︎
助けて…誰か!助けて‼︎
「淳君‼︎‼︎」
「美絵‼︎‼︎‼︎」
私は確かに聞こえた、男達の動きが止まってる、さっきの声は聞き覚えのある声。
そう、私の大好きな人の声。

「やはりここだったか」
工場の中には男の集団と手足を縛られた美絵がいた。
「美絵‼︎」
「淳君‼︎」
僕と美絵はお互いの存在を確かめあった。
「ちっ、余計な邪魔が入ったか」
男達はこちらを見て戦闘態勢を取っていた。
「お前らも相変わらず変わらないな」
沖がどんどん前へ進んでいく、すると男達の表情が一変した。
「な…⁈お前は、デビルの沖⁈」
男達はそう言うと急に動揺しはじめた。
デビルの沖…沖と最初に出会った時に昔は怖いように呼ばれていた事があると聞いていたが、不良だった時のあだ名か?
沖は平然と男達に近づいてく、その距離はもう3mもない。
沖は手前で止まった。
「前は完全に仕留めた筈だったが、まだ生きていたか」
「貴様、今度という今度は許さん。自ら来た事を後悔させてやる‼︎」
するとどこからともなく男達が現れた、挟まれたのだ。
「沖、この状況どうするんだ?」
「決まってる、自分で何とかしろ」
相手はバットや鉄の棒やらいろいろもっている。
こっちはほぼ無防備な状態。
「淳、俺が敵を引きつける。お前は美絵を連れてすぐにでも逃げろ」
そうしたいが、ここまで厳重に囲まれたら逃げるのは恐らく不可能だ。
しばらくして相手が襲いかかってきた、沖は器用に受け流してカウンターを食らわしている。
僕は避けるのが精一杯、反撃の空きなんてない。
そして一発目、相手のパンチが自分の腹部を直撃する。
「うっ…‼︎」
3歩ほど後ずさり、倒れこんだ。
続いて二発目、左足に蹴りを食らった。痛みは凄まじいものだった、声にならない声を上げ、その場に倒れた。情けない、こんな事なら運動しておくべきだった。
「淳君‼︎」
美絵の声はほとんど耳に入らなかった、どうやら倒れた時に頭を打ってしまったらしい。脳振盪を起こして視界もぼやけてきた。
沖も流石に人数で追い込まれてる、このままじゃ美絵が…意識が薄れていく中、その時。
突然周りのザワつきが収まった。
何事かと残った意識で男達の視線の先を見てみる。
そこには別の集団が現れていた、この男達の増援か?もう駄目だと確信した。
「お前達‼︎⁉︎どうしてここに⁉︎」
沖が突然叫んだ、男達の仲間じゃないのか?
「沖さん、俺達はいつでも仲間、そうでしょ」
「一人で突っ走らないで下さいよ、俺らも加勢します!」
どうやら、増援の集団は沖の昔の仲間みたいだ。
そして僕は意識を失ってしまう、どうなってしまうのか。こんな所で…。

目が覚めたのは1時間後だった。
僕は気付けば家のベッドに寝込んでいた。
隣には沖と美絵の母親、そして美絵が立っていた。
どうやら無事に帰って来れたみたいだ、美絵も外見を見る限り傷一つ付いてない。沖はボロボロになっていた、意識を失ってる間にだいぶやられたのだろう。
ふと美絵と目が合った、美絵は僕の顔を見て突然泣き出した。
「淳君…ごめんなさい…私」
僕は美絵の頬に手を添えた。
「こんな弱い僕で、ごめん。もっと自分の気持ちに早く気づいていればこんな事にはならなかったのに…」
お互いの壁はこれで少しは乗り越えられたのだろうか?
「淳、お前は美絵ちゃんの事をしっかり守れ。今度は自分の力で守るんだぞ」
沖はそれだけ言い残して部屋から出て行った。
あいつには今度ジュースでも奢らないとな、いや…それじゃあ足りないか。

それから僕は少し眠っていた。
気づけばもう夜中の3時、いつも通り美絵は隣で寝ている。
携帯を見ると沖からメールが来ていた。
『帰る途中、春香に会って傷の心配されたのだが、事情を話したらあいつ回し蹴りして泣きついてきやがった。全くいい迷惑だぜ』
沖、それは当たり前だ。何気にお前も永瀬に鈍い奴だな、そっちもいい加減に気づいてやれよ。
そんな事を思いながら、また眠りにつく。