newカシオンと北星の物語 第1話
僕が17歳の頃、あの時は高校2年生の冬だった。
当時の生活は、平日は普通に学校へ通い、金曜日から日曜日までは祖父の家で泊まりによく行っていた。僕の父と母が休日も仕事だった為だ。お金も親が出してくれてたので、祖父の家に帰るのがほとんど日常になっていた。
自分の祖父の家が北海道の札幌にある為、仙台駅から札幌まで寝台特急「北斗星」で通う事にしていた。
時間も夜だった為、学校が終わったら支度をして、金曜の夜に寝台特急に乗れば次の日には札幌に着いてる。そして日曜の夕方の寝台特急に乗れば仙台に早朝のうちに戻れる。
こんな生活をもう何年送ってるのだろうか。
しかし、ある日の出会いときっかけが、僕の人生を大きく変えた。このきっかけが無かったら、今の自分も存在していなくて、子供も産まれて来なかっただろう。
そう、あの仙台駅で出会うその日までは。
ある日の夜、時間はちょうど夜の8時だ。
僕はいつものように駅で弁当を買って、北斗星を待っている。
僕はいつも駅弁を二つ買っている、一つだと少なくてどうしてもお腹が空いてしまうからだ。
寝台特急には食堂車もあるが、駅で買った方が安く済む。
そして駅弁を買っていつものようにホームのベンチでゆったりしている。
冬の仙台駅はすごく冷える、特に日が沈んだ夜は凍える寒さのような時もある。今日はその寒い日だった。
僕はこっちの住人だから寒さには慣れてるが、慣れてない普通の人ならすぐにでも手が冷えて自動販売機のじっくりコトコトのコーンスープを買い求める。実際にホームで買ってる人をたくさん見てきた。
いつも好きな小説を読んでグダグダ過ごしていたら、寝台特急がホームに入線してきた。
いつも見る青の車体、世間からは豪華寝台特急とも呼ばれている、それが北斗星だ。
その列車に毎週当たり前のように乗ってる自分も今となったらおかしいと思う。
そしていつものように乗車、到着してすぐ発車ベルが鳴る。
扉が閉まろうとした…その時、一人の客が北斗星の車内に飛び込んで来た。間一髪で挟まれずに済んだが、勢いよく飛び込んで来たせいで壁に激突していた。そう…この時に飛び込んで来た人が、僕の今の妻である北星だったのだ。
そして僕は、この時の北星に一目惚れしてしまった。それが大きなきっかけだったのだろう。
「いてて、あぶなかった…何とか間に合ったわ」
北星は何もなかったように切符を見て自分の部屋に歩いていく、僕もその後を追うかのように自分の部屋へ歩いて行った。
この時は座席が空いてなかったので、ちょっと高めの一人用個室を取っていたのだ。
しかし、それがまさか北星の隣の部屋だったとは思わなかった。
個室は思った以上に広いけど、結構狭い。おまけに少し大きい音だと隣に聞こえてしまう。
そんな事はお構い無しに僕は無言で着替えてさっさと寝ようとした時、隣から大きな声が聞こえてきた。
「あぁ!!弁当買い忘れたっっ!!」
突然の声に僕もビックリして立ち上がってしまった。
あまりに大声だったので、何があったかと思い、僕は隣の壁に耳を当てて会話を聞いていた。
「いつも弁当買うのに…今日だけ寝坊しちゃって遅れたから弁当買えなかった。どうしよう…お腹空いたなぁ……」
たかが弁当、されど弁当だ。この北斗星は札幌までまだ数時間も乗り続けなければならない。でも食堂車も付いているのにこの慌て様は、食堂車に行くだけのお金を持ち合わせてないという事だった。
僕は「なんだ弁当か…」とホッとして普通にベッドに腰掛けた。でも何だか落ち着かなかった、隣の人の事は別に気にしなくてもいいのに、どうしても気になってしまった。
一目惚れした相手だからこそ、ここまで考え込むようになったのだろう。
ふと気がつくと、僕はテーブルに置いた駅弁の袋を見ていた。
「駅弁二つ…か…」
そっと口にして、僕はその袋を持って車内の廊下に出た。
自分でも当時は何をしてるのかよく分からなかった、考えるより体が先に動いてしまう。
気づけば僕は彼女の部屋の前にいた、そして迷う事なく僕は部屋の扉をノックする。
「だ、誰⁈」
彼女は驚いたように返事をして、ゆっくり部屋の扉を開ける。
あの時すれ違った顔だ…なんて思いながら、僕は彼女に話しかける。
「あの…会話聞こえてしまったのであれなのですけど…。よろしければ、この駅弁お一つどうですか?」
僕は袋から仙台で買った駅弁を一つ取り出して彼女に見せる。彼女の目は完全に駅弁をガン見していた。今か今かとよこせと言ってもいいような目だった。
「これ…私にくれるのですか…?」
彼女は恐る恐る話しかけてきた。僕の答えは決まっていた。
「もちろんです、丁度駅弁も間違えて二つ買ってしまって、なのでお一つあげます」
見え見えな嘘をついて僕は彼女に駅弁を渡す。
すると彼女は、その駅弁を少し見つめてから突然泣き出したのだ。
「え⁈ど、どうされたのですか⁈もしかして、食べれない駅弁でしたか⁈」
「ち…違います…。私…こんなに優しくされたの…初めてで…嬉しくてついっ…」
彼女の涙はしばらく止まる事はなかった、こんな事でこれほど感動するとなると、この子の生活は一体どんな生活を送っているのか気になる。
それでも彼女は駅前を受け取ると、涙を拭って「ありがとう」と笑顔で笑ってくれた。
そして僕はこの笑顔に惚れたんだ。
これが、僕と北星が出会ったきっかけ…。
つづく