みちのく旅行記

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オリジナル物語「電車と二人」二章 青葉高校

二章 青葉高校

電話の中で自己紹介をしたものの、まだ沈黙状況は続いていた。
無浜駅まではあと15分程度、この時間をどうするか…。
そういえば、何で安井さんは青葉高校を選んだのだろうか?

実は青葉高校はいろいろと不思議な人が多くて、その大半は過去にいろいろ事情を持っている人や問題を起こした人がほとんどだ。
だから好き込んで入りたいと言う高校じゃない、ここの理事長が他人を助けたい思いで、様々な過去を持った人はここで育ててくれる方針になっている。
もちろん、自分もある過去を背負っていた。本当に単純な事だけど。
でもこの青葉高校はそんな事情を分かり合える人が多い、事情は違っても互いの気持ちに同情するだけの経験をお互いが知ってるからだ。
生徒手帳の学生生活に関する事が書かれてるところの一つにこう書かれている。
『校則18*自分の過去を隠さずに打ち明かす事、そして分かり合えるように努力する事』
馬鹿けだ校則かもしれないが、この青葉高校だからこそのルールなのだ。
だから目の前にいる彼女もそのような過去を持っているのだろうか?
もし持っているなら、この学校のルールだけでも気づかせてあげないと。
「安井さん、あの…」
「は、はい。何でしょうか?」
「生徒手帳って、もう見た?」
そこから話を進めていけば、自然と会話になるだろうと僕は思った。
「いえ…まだです」
「なら、生徒手帳の25ページの校則規定の18番目に目を通しておいて。それはこの学校に来た人に必ず教えないといけない校則だから」
そう聞いた彼女は生徒手帳をカバンから取り出して、すぐさま生徒手帳の25ページを開いていた。
それを見た彼女は、少し険しい表情だった。
無理もない、校則に過去を隠さず打ち明かすなんて簡単に出来ない。でもそれが青葉高校の狙いだとも言える。
僕らのクラスは自己紹介の時に過去に何があったのかを打ち明かすくらいだ、でもみんなは笑いもしないでひたすら同情してくれてる。
喧嘩も時には起こるみたいだけど、それもまた経験と言って教師達も見逃している。
彼女にそれが理解出来ればいい、もっとも彼女に辛い過去があればの話…
「これは、私に辛い事を言わせると言う事なのですか…?」
彼女は真剣に目を見て話してくる、やはり最初はみんなそう思うのだろうね、僕も最初はそうだったから。
「無理に話せとは言ってないよ、この高校はそう言う高校だと言う事を教えておきたかったんだ」
しかし時間はあっと言う間に過ぎてしまう、気づけばもうすぐ無浜駅に着く。
彼女は黙ったままだ、と言う事は…やはり過去に何かあったのだろう。
「…小田原先輩」
彼女が険しい表情のままこちらを見てくる。
「…気が向いたら話します…」
それが彼女の精一杯なのだろう、でも僕は深入りせずに首を縦に振って返事をした。
そして電車は無浜駅に到着、彼女はこの先の小さい駅まで乗ってくらしい、そこから通学する人も多少いるだろう。
僕は安井さんに手を振って見送った、でもやっぱり生徒手帳を見てから表情を変えた安井さんがやはり気になる。
でも迷わずに家に帰る。

「ただいまぁ〜…って、誰もいないか」
帰ってきた家は普通の二階建ての一軒家。
でも家には誰もいない、僕の両親は事故で亡くなっていたのだ。
小さい頃の僕にケーキを買いに行った矢先、居眠り運転で突っ込んできたトラックと正面衝突して、あっと言う間の出来事だったらしい。
運転席と助手席は完全に形がなく、そこに挟まれ出血多量で亡くなったのが死因。
そのトラックの運転士は、今でも毎月僕にお金を送りつけてくる。
こんなので解決なんてしない、使わなくてもいいから受け取ってくれと、泣いて頼み込まれたのだ。
あそこまで頼まれて受け取らない訳にはいかない、でも使ったりはしない。
今でも銀行にしっかり預けている。
もう昔の事で、運転士さんは十分に責任を感じてくれてるだけでいいのに、それにあの運転士さんが一番早く救急車を呼んで、父さんや母さんを自ら助けようとしてた。
当たり前のようだけど、その当たり前が世の中出来てない人が多いから、逆に珍しい。
もう過去を責めるつもりはないし、今は親の代わりに親戚のおじさんが僕を支えてくれてる。
とても良い人だし、小さい頃から僕を育てて今の学費も払ってくれてる。
いつかは恩返しもするつもりだ。

家に帰ってもやる事は特にない。
部屋も散らかってないし、料理もそこそこ作れる。
ただ1人には無駄に部屋の数が多い、親の部屋は昔のままにしてあるが、いつかは片付けないといけない。
「はぁ…」
ため息ついても、まだお昼なのだ。
これから昼食を作って、あとは暇に遊ぶだけ。

昼食も食べ終わって、どうしようか考える。
何もする事はない、学校の宿題はないし、僕も成績が悪い訳ではないから特に何もしないでいい。
適当に外をふらふら歩いて過ごしておこう。
結果的に、今日は普通に過ごすだけだった。

私は小田原先輩の降りた駅の2つ先の駅(屋雲神社前駅)で降りる。
家に帰ればお母さんが待っている、お昼御飯を作って待っているのだと思う。
私の人には言えない事情、それは家計が厳しい事とお父さんがいない事。
お父さんは私が中学の時に病気で亡くなってしまった。
その事で学校ではイジメの扱いになって、それが嫌になってこの街に引っ越してきた。
まだ街には慣れてないけど、近所の人はとても優しい。
私達の家計が厳しい時に野菜やお米を分けてくれたりしてくれる。
この青葉地区に住んでる人は互いが助け合っていくのがもっとうらしい。
こうして学費はお父さんの保険金で賄えてるらしいけど、私だけこんな普通の生活でいいのだろうか。
お母さんは夜にバイトして何とか家賃を払うギリギリの値段で何とか住めてるけど。
苦しまなければならないのは私じゃないのだろうか?

翌日、僕は学校の教室にいた。
朝は5時に起きて、朝一の電車に乗ってくる、それでも学校には8時に着く。
「お前は相変わらずおそいなぁ〜」
「うるせーよ、電車通学なんだから仕方ないだろ」
この話しかけてきた奴は「横山 北斗」(よこやま ほくと)、中学の時に両親が離婚してこの街に引っ越してきたらしい。今は母親と二人暮らしだそうだ。
見た目はハッチャケてそうな奴だが、根は優しい奴だ。僕の最初の友達でもある。
「飽きないよな、お前。電車で帰るのはお前一人だけだろ?」
「いや、昨日新入生が一人電車で帰るのに加わった」
「なにいいぃぃぃ〜⁈」
こいつは相変わらずふざけた会話をするのが得意。
「お前…まさか年下好みなのか⁈」
「ちげえよ‼︎どんな思考したらそんな風になるんだよ⁉︎」
くだらない会話も繰り返していれば、次々と生徒が教室に入ってくる。
「おっす、淳。調子はどうだ?」
「沖、今度は茶髪か?似合ってないぞ〜」
「おいこら」
もう一人の友達、「朝倉 沖」(あさくら おき)、元不良集団の一員だったらしいが、自分のやってる事の間違いに気づいて何とかしようとこの学校に入学したらしい。
実は成績はダントツの一位、何とかしようと努力してるとは聞いたが、努力しすぎだと僕は思う。
唯一変わってないのは毎週髪の色が違う事、これは沖の癖らしいがその癖を直せば完璧になると思う。
まあ、沖のスタイルはそっちの方がいいと思う。
ちなみに髪の色の事は本来校則違反なのだが、成績があまりにも優秀すぎて先生もなかなか言い出せないらしい。ほとんど諦めてると言ってる。女子には意外にもモテるし、本当に元不良集団なのかを疑わざるおえない。
「ちょっと、私を忘れないでよ」
突然やってきたのは、このクラスの委員長の「永瀬 春香」(ながせ はるか)、毎度僕らを監視してくるしつこい委員長。
実は沖のスタイルにかなり妬いていて、毎度やめるように言うのだが。
「ちょっと朝倉!あんた今度は茶髪⁈いい加減に黒髪に戻しなさい!」
「んだよ〜、別に癖だから仕方ないだろ、春香」
「なっ⁈な、名前で呼ばないでよこの馬鹿ぁ‼︎」
そう、周囲から見れば鈍感男とツンデレ女子にしか見えない、あーあ…リア充じゃないとは言え怖いわ。
でもこんな委員長も実は辛い過去を背負っているのだ。
委員長の父親は元市の議員だったのだが、小学校の頃に不正な取引の事がマスコミにバレて、それ以来から彼女はクラスからも世間からも嫌われて、一年前にこの青葉高校に転校してきた。
委員長は沖の事が好きなのかどうか分からないが、沖に何度も突っかかっていく性格。
でもこんな会話があるから青葉高校はいつも平和だ。
今年入学してきた生徒はどう過ごすのか楽しみだ、ちなみに今年は49人が入学して、3人が転校してきたらしい。
僕のクラスは16人しかいないが、それくらいが丁度いい、無駄に多くても困るだけだ。

そんな訳で担任がやってきた、「花井 和水」(はない なごみ)、この名前でも一応老人のじいさん教師だ、ほとんどの人は和水と呼ぶ人が多い。
一年の頃の担任で、いろいろ古臭い事を言うが、なかなか興味深い話もたまにある。
「おはよう、みんな」
「「「おはようございます!」」」
今日もまた普通の授業が始まるのか、昨日会った安井さんって人は上手くクラスに馴染めてるだろうか?

その頃安井美絵は教室にいた、一時間目の授業が始まろうとしてる時でもクラスは無言のままだった。
そして一時間目、最初は自己紹介をみんなでしようと言う事で永井先生が決めた。
「永井 富士」(ながい ふじ)、二年生の時の小田原淳の担任、人をいじるのが好きで、無駄話が多い。
無駄に力が強くて、喧嘩の時は割って入ると両者をワンパンチでKOにしてしまう。
この学校の自己紹介は、普通とは違う。
さっきも言った通り、校則である事も守らなければならない。
そして永井先生が切り出す。
「じゃあ一人一人自己紹介してもらうぞ、だがその前に…全員生徒手帳の25ページを開け」
そう言うと全員一斉に生徒手帳を出してページを開く。
「見た人は分かると思うが、校則18番目に目を通せ」
それをみた生徒のほとんどが表情を変えた、たった一人を除いて。
「全員分かるか、この校則の意味を。ここでは隠し事は無しだ、私は全員の家庭の事情や過去の事を知っている。ここではその隠し事を全員に打ち明ける自己紹介だ」
クラス全体がざわめきだす、中には知らない同士の隣の人と相談する人もいる。
ただ一人は考えていた、自分の家庭の事情を言ってしまったら馬鹿にされるのかもしれない。
「ただし、今言えと言う訳じゃない。無理には私も進めないし、言える時でいい。まず出席番号1番!」
「は、はい!」
一人の男子が黒板の真ん中に立たされる。
「は、初めまして!○○中学から来ました○○です!えっと…その…」
彼は口を閉じてしまう。
この自己紹介はふざけている、本当なら誰もが明かしたくない過去をこの黒板前で言わされるんだ。
結果、彼は何も言えずに自己紹介を終えてしまった。
そして次々と黒板の前に立たされていくが、誰一人秘密を明かす人はいなかった、もちろん安井美絵も。
一時間目が終わると、ほとんどの人から批判の声が上がっていた。
「んだよ、秘密を明かすとか意味分かんないし」
「校則とか聞いてないわよ、ここが1番だからって聞いてきたのに」
こうして聞こえるように喋る人も秘密があるのだろう。
安井美絵はただ黙っていた。
その後は授業も進んで、気づけば下校時間だ。
安井美絵は昨日と同じくトボトボと駅へ歩いていた、そして一人考えていた。
過去や知られたくない秘密を明かすと言う事はどう言う事なのだろうか、それで何か変わるのか?
「…小田原先輩なら、分かるのかな?」
そうポツリと呟いて駅に向かう。

青葉高校前駅から電車に乗った安井美絵は、やはり一人だけの車内で悩んでいた。
「秘密は、本当は明かさない方がいいんじゃないの…?明かして同情ってそんな簡単に出来る訳ないよ…」
誰かに語りかけるように呟いてしまう、考えている時間はあっという間。
いつの間にか青葉高校前西駅に到着。
そしてそこから乗ってくるのは平凡な高校生一人だけ。
「あ、こんにちは」
小田原淳は昨日会ったばかりの安井美絵に語りかける。
「…こんにちは」
小田原淳は彼女の前に座る。
「クラスには馴染めたの?」
「……」
「それか、永井先生の事だから、自己紹介で自分の隠してる事を打ち明けろ、とか言われたりしなかった?」
「…よく分かってますね…」
あの先生の担任だと嫌でもあの先生のパターンが分かってしまう。
それよりさっきから彼女の機嫌が良さそうにない。
多分、過去を打ち明けられないで、自己紹介は終わったのだろう。
電車はすかさず発車した。

「…小田原先輩、一つ聞いていいですか?」
彼女が突然真面目そうに話してきた。
「何?」
「…過去を打ち明けるのって、簡単な事なのでしょうか…」
なるほど、その事でずっと悩んでいたのか。
小田原淳は悟ったように彼女に話しかけた。
「僕には、両親がいないんだ」
「え…?」
突然の事で彼女は驚いているが、小田原淳は話を続けた。
「小さい頃に両親がケーキを買いに行こうとした時に、正面衝突したトラックに押しつぶされて、両親を二人とも失ったのさ。ずっと一人だった、とても辛かった。トラックの運転士さんは毎月謝りに来ている、責任をずっと感じていてお金も送ってくれてる、もちろん使ってないけど。親戚の人に育ててもらって、今もこうして僕は青葉高校に通う事が出来る。どうかな…、これが僕の…」
話を終わらせようと彼女の顔を見たら…泣いている?
「…ぁ…」
彼女は自分が涙を流している事に気付いたのか、顔を逸らした。
「違います…ぅ、これは…」
小田原淳は彼女が同情してくれてると思った、自分の過去をこうもして考えて同情してもらえて、僕はそれだけで彼女と打ち明けたと思った。
「同情してくれてるんでしょ」
「違います…ヒク…」
彼女の過去の事は分からないが、もしかすると同じような事なのかもしれない。
「過去を打ち明ければ、そこから分かり合える人だっている。安井さんが僕の過去に同情してくれたように、安井さんに何か辛い事があるなら、多分僕も…安井さんに同情してあげれると思う。それが青葉高校の方針の一つだって聞いたよ」
彼女は泣いたまま僕に何かを言おうとしている、けど言葉にならないほど口を震わせている。
見てるだけしか出来ないのか、でも彼女が打ち明けようとしてるなら、待つしかない。
「私は…私の家庭は………」


無浜駅まであと30分、彼女は全てを打ち明けてくれた。
父親が病気で亡くなって、その事があって学校ではイジメを受けてた。
分かる気がする、イジメる側からすれば「お前の親の病気が移るから近寄るな」とか言われたりしたのだろう、辛いと思う、そして家庭もあまり良くないって。
母親が夜に何とかアルバイトで頑張ってるらしい、でもその負担は比べ物にならないほど。
こんな時、僕は一つのある事を思いついた。
でもそれは親戚のおじさんに一度相談してみないと分からない。
その計画は密かに進めようと思う。
とりあえず、今後の事も考えておいたら安井さんとは電話のやり取りも必要になるだろう。
「安井さん、良かったら携帯番号交換しませんか?」
「ごめんなさい…私携帯持ってないのです…」
あ、そうか。家賃払うだけでも精一杯なのに、携帯を持ってる訳ないか。
「じゃあ、この紙に携帯番号を書いておくよ。何かあればこれで連絡して」
「はい、ありがとうございます」
彼女は少し微笑んでいた、これで少し安心した。
あっという間だが、気づけば無浜駅に到着していた。
「では安井さん、また明日」
「はい、また明日」
そうして電車の扉は閉まる。

翌日、安井美絵は一時間目の再び自己紹介の時に、自分の過去の事を打ち明けた。
「私は昔、父親を病気で亡くしてから、ヒドイ目にあっていました。今も家計は苦しくて、家賃を払うのが精一杯なくらいです。こんな自分でしたが、この高校で卒業していつかお母さんに恩返しが出来るようにしたいです。よろしくお願いします」
その言葉を聞いたクラス全員は、固まってしまった。
それを聞いた一人の男子が手を挙げてた。
「先生、僕も自己紹介をやり直させて下さい」
そして、それを聞いて次々と手が挙がっていく。
我は我はと先走るように、クラスの雰囲気は一気に変わった。
その授業が終わったあと、安井美絵は一息ついていた時に、隣の女子から包み紙みたいな物を手渡された。
そして隣の女子が「前の席から回ってきたのよ」と、一声かける。
「あの男子の家が農作物をやってるから、少ないけど使ってくれだってさ」
安井は包み紙を開けると、そこにはトマトやニンジン、野菜などがあった。
さらに、反対隣の男子からは「俺ん家、米作ったりしてるから、明日多少余った分の米を持ってくるよ」と一声かけてもらった。
安井の気持ちに同情したクラスが、安井を助けようと、または安井に助けてほしいとねだる人もいた。
安井の気持ちがクラスを変えた、そして安井の心を変えるきっかけを作ってくれた人。
「小田原先輩に、後でお礼言わないと…」

「ハクション‼︎」
「汚いな〜、淳」
「うるせーよ、北斗。誰かに呼ばれたような気がしただけだよ」
小田原淳は安井美絵の事を思い出していた、昨日の微笑んでいた安井さん。思ってるより可愛かった…などと関係ない事を考えてるのだった。
こうして平和が整った青葉高校だった。

二章END