みちのく旅行記

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オリジナル物語「電車と二人」一章この本は何?

一章「この本は何?」

電車に揺られて30分が経とうとしていた、家の最寄り駅まではあと1時間もかかる。
座席に腰掛けて、僕はひたすらぼーっとしてるだけ、目の前にいる女子高生はひたすら本を読んでいる。
「………」
沈黙する空気、聞こえるのはガタンゴトンと鳴らす電車の音。
何か気になる。
本来自分一人だけの車内にもう一人いる訳だから、どこの学校なのか、下校なのか登校なのか、それは別に普通の事だと思う。
しかしどうでもいい事に気を向けてしまうのが僕なのだ。
僕が気になるのは、彼女が読んでる本だ。
さっきから彼女は面白い場面を読んでるのか、クスクスと笑っている時や険しい顔になったりしている、条件反射的に顔にいろいろ出るのが彼女の特徴なのかもしれない。
そんなに表情を変えるだけの本なのか?そればかり気にしてしまう。
「…あのー……」
お笑い系なのか、それともやはり恋愛小説なのか?どっちにしろ気になる、どんな本なのか。
「あのー……」
もしこれで漫画だったらいろいろと笑えてしまうが、内容によっては良いものもある。
「あのっ!」
ビクッと、突然聞こえた声にびっくりしてしまった。
我に返って目の前を見てみると、女子高生がこちらを見ていた。
「私に何か付いてますか…?」
思わずじっと見ていた事に彼女が気づいて声をかけてきたのだろう。
「あ…いや、その…」
慌ててる僕はひたすら誤魔化そうと言葉を考えていて、口にした言葉が。
「その本は…何の本ですか?」
思わず口にしてしまったが、その言葉を聞いて彼女は少し間をおいてこう答えてくれた。
「その…聞いて笑わないですか…?」
「え…?」
まさかまともに言葉が返ってくるとは思ってもいなかった、普通に「別にあなたには関係ないです」とか「小説です」とかスルーされそうな言葉が来ると思っていた。
とにかく会話を進めるしかない、そう思って僕は彼女に笑わないと言った。
彼女は険しそうな少し恥ずかしいような感じでこう答えてくれた。
「…恋愛小説です」
そこは普通に「小説です」って言ってくれたらいいのにと、心の中では思っていた事は秘密だ。
彼女は顔を真っ赤にして本で顔を隠してる、その素振りはとても可愛いのだが…他のお客さんもいたらいろいろ疑われかねない、運転士さんだけで助かるわ。
とは思いつつも、どう言葉を返そうか迷う一方だ。
「恋愛小説なんだ、どんな物語なの…?」
どうでもいい事を勝手に口にするな僕…口が反射的に動いてしまって、思ってる事とは全く違う事をしている。
彼女は顔を隠したままだが、何か考えてるようにも思えた。
「その…電車で二人きりの…お話しです」
て、今この状況と同じですよね⁈
よりによって何でそんな小説が…彼女が顔を真っ赤にしてる理由もなんとなく分かる。
小説と同じ状況なんだ、それはその小説みたいな同じ展開が目の前で起こるとでも思ってしまったのだろう。
だが残念な事に僕は恋愛にあまり興味がないのだ、そのため会話もあまり続きそうになくて、僕は適当に会話を終わらせようとした。
「な、なるほどね。はは…」
もう言葉が形になってないが、これくらいの言葉しか思いつかなかった。
彼女は僕の心を察したのか、口を閉ざしていた。
そしてまた沈黙の時間…と思えたが。
「あなたは…どこの学校の人ですか?」
「…え?」
いきなりだからまたびっくりしてしまった。
まさか会話が続くとは思ってもいなかった、確かに沈黙よりはマシかもしれない…いや、マシじゃないかもしれないが。
「あ、僕は…青葉高校の生徒です」
「青葉高校…」
彼女が少し考え込むと。
「私の高校と同じなのですね」
「…は?」
え、そうなの?でも制服違うし…どう言う事だ?
青葉高校はこの付近では一つしかない、なのに同じ学校?
「その制服…私達と違うデザインみたいですけど…そのバッチは私達と同じですよね」
言われてみれば、彼女の胸元のポケットに付いてるバッチは確かに青葉高校のバッチだ。
全体を見ていて気づかなかったが、間違いなく青葉高校の生徒という証拠だ。
「デザインが…変わったのでしょうか…」
「どうだろう…こっちには新しい制服は来てないし…」
何故かあれほど会話を終わらせようと思っていたのに、いつの間にか会話はどんどん進んでる。
「あの、あなたは一年生ですか?」
「え…あ、はい!今年から青葉高校の一年生になりました!」
彼女は慌てて言葉を返すも、だとしたら一年生だけ新しい制服のデザインになったのだろう。
普通に考えたら、3年生に新しい制服を買わせる学校なんてほとんどないか。
まあ紛らわしい事は解決した、のはいいとして…この二人だけの車内は何とかしてほしい。
さっきからちょくちょく駅には停車してるが、誰も乗ってこない。
まだ家の最寄り駅…駅名は無浜(なはま)まであと30分くらい。
お互いに顔をそらしているけど、どことなく緊張が解れていた。会話が進んで慣れたからだと思う。
「えっと…あなたは、3年生の人ですよね…?」
「う、うん」
「もしかして…小田原淳さんですか?」
え⁈何で僕の名前を知ってるの?
「そ、そうだけど…何で名前を?」
「先生が…電車で帰るなら小田原淳さんが乗ってるから、何か質問とか聞きたい事は小田原さんに聞きなさいって…」
その先生を今すぐ呼んでこい、目の前で教育免許をキャンプファイヤーみたいに燃やしてやる。
「担任の先生は誰なの?」
「えっと…永井先生と言う人です」
永井先生は僕の二年生の時の担任の先生だ、電車通学の僕によくちょっかいかけてきたな、でも授業の内容は分かりやすいから良い先生だと僕は思う。
「…はぁ。じゃあ、永井先生の頼みの訳だし、困った時はいろいろ聞いてよ」
「はい、分かりました」
微妙な雰囲気の中でも、この時心の中では微かに明るい雰囲気になってる自分がいた。
彼女も多分、いろいろ初めての事で迷っていたのだろう。
「改めて、僕は小田原淳。よろしく」
「私は安井 美絵(やすい みえ)です、どうぞよろしくお願いします」

始業式の当日、いよいよ私は高校一年生。
事情があって、この青葉高校を選んで何とか合格できた。
制服はやっぱり新鮮な感じで新しい、これを平日は毎日着る訳だからすぐに慣れたいと思う私がいる。
ただ青葉高校は交通が不便で、通学で下校するならバスを使うといいと言われた。
でもあえて私はさらに不便な電車通学を選んだ、だって定期券のお金が無駄になるし、駅まで遠くても良い運動になると思ったから。

始業式も終わって私は下校しようとした時、私達クラスの担任の永井先生に呼び止められた。
「安井さん、君の通学方法を見たのだが、電車を使って下校するのか?」
「はい、駅までは遠いですが…ちょっとした運動にもなりますし」
「なら君に一つ教えておこう」
私は何を教えてくれるのか首を傾げるしかなかった。
「この学校で電車で下校している生徒は君以外にもう一人だけいる。私の担任した生徒の「小田原 淳」と言う奴だ。もし何か聞きたい事があれば彼に聞きなさい。在校生の3年生だからこの学校の事をよく説明してくれるだろう」
そう言い残して永井先生は教室を出て行った。

私も教室を後にして、駅にひたすら歩いて行った。
この青葉高校から行ける駅は二つある、一つは青葉高校前と青葉高校前西駅、どちらも名前が同じみたいだけど、どちらに降りても距離はさほど変わらない。
私は青葉高校前駅に向かって歩く、これから私は帰る時、この道を通って帰るんだ…。

私は電車に乗ってのんびりしようかと思っていたのだが、少し気になるのは…永井先生が言っていた小田原淳は車内にいない。
もしかしたら、西駅の方から乗るのだろうか?
この二つの駅と駅の距離はかなりあって、時間にすれば12分くらい。
青葉高校が駅と駅の間にあると思えば簡単かもしれないけど、やはり学校から駅の遠さと本数の少なさにかなりの不便がある。
この電車を利用するのは結局私と、先生が言っていた小田原淳さんと言う人。
もうすぐ駅に着く、本当にそんな人いるのだろうか?
あ、ホームに一人だけ人がいる。
あれが先生の言っていた小田原淳さんだろうか?
電車は停車すると、容赦なくドアを開ける。
彼が小田原淳さん、一見普通の高校生と見える。制服のデザインが私達の男子とは違うけど、あのバッチは青葉高校のバッチに間違いない。
多分私達から制服のデザインが新しくなったのだろう。
彼は私の目の前に座った、私はその人を無視するように家から持ってきた小説を読む。
彼は辺りをキョロキョロ見回していた、何が気になるのか…あるいはこの空気を紛らわすための素振りなのかな?
すると彼が私をじっと見てくる。
私は小説を読むけど、これが運が悪いのか…読もうとした部分が電車で二人っきりの恋愛シーン。
家から適当に持ってきた小説が恋愛小説なのはいいとして、タイミングが悪すぎる。
小説から目をそらしてチラチラと周りを見ていると、彼が私をずっと見ている。
とてもじゃないけどすごい気まずいような雰囲気、ずっと見られていると正直恥ずかしいけど、他に誰もいないのが救いだった。
「あのー…」
私は勇気を出して声をかけた、でも彼に聞こえなかったのか、彼は呆然として私を見ている。
「あのー」
また声をかけても反応がない、何を深く考えてるのか分からないけど、とにかくこの状況を何とかしたい。
「あのっ!」
これでもと言うくらいの声を出してみた。
すると彼はビクッと体が跳ねて私をまた見てくる。
「私に何か付いてますか…?」
とりあえず普通の会話を振るしかない、彼は慌ててるようだけど。
「あ…いや、その…」
「その本は…何の本ですか?」
彼は悪気があって聞いてきたんじゃないと思う、ただ混乱して頭に出た言葉を口にしただけ。
でもその質問は私にはちょっと無理がある質問だった。
普通に恋愛小説と言えばこの場を切り抜けられるのだろうか?
「その…聞いて笑わないですか?」
「…え?」
「…恋愛小説です…」
私は普通に小説と言えば良いと思ったのに、何故か恥ずかしくて言葉先走ったけど、すると彼は。
「恋愛小説なんだ、どんな物語なの…?」
うわぁぁぁ…聞いてほしくない言葉が返ってきたよ。
かと言って、誤魔化すのも悪いし…恥ずかしいけど正直に話そう。
「その…電車で二人きりの…お話しです」
言ったら急に恥ずかしくなって私は小説で顔を隠すようにした。
彼も内容を理解して察したのか、その後は誤魔化すような返事をしてきた。
この時はそんな感じだった、それは今でも私は覚えてる。
これは私の記憶を話しただけ、でも面白かった。彼の初めて出会った姿があんな形で出会ったのだから。

一章END