第7話
キウシ「ここは、西暦何年だ?」
その言葉を聞いた瞬間、ミカンは悟った。
この人も別の時代から来た人だと。
ミカン「もしかして、あなたも別の時代から…?」
キウシ「何?!それはどういう事だ?」
ミカン「実は…」
ミカンはここに来る前までの話をキウシに話した。
自分は2900年からこの時代に飛んで来て、ハルス王国に捕まったと思われるミリアに命を救われたと。
キウシ「マジか…俺が飛ぶはずだった時代のポケモンだったのか」
ミカン「そういう事は、あなたも違う時代から?」
キウシ「あぁ、俺は2700年から2900年に行こうとしたんだが、そのタイムワープに失敗して…気づいたらここに居たって感じだ」
その話もあってか、キウシとミカンは意外にも意気投合していた。
キウシ「しかし、君を助けたミリアという人、時代を越える魔法を生み出すとはすごいな。と言うか、魔法なんてあるのか」
ミカン「そういうキウシさんも、かなり桁外れな力を持ってますよね?」
キウシ「まあ桁外れとは言い過ぎだがな。あと呼び捨てで構わないぞ、俺は堅苦しい事はあまり望んでいないからな」
ミカン「じゃあキウシ、突然であれだけど…ミリアを救い出す事は出来るの?」
キウシ「それは…無理だな。理由は言えない、けど2900年にミカンを連れて行く事くらいは可能だ」
自分の力で時代の流れを変えてしまう行為は時空警備隊のルールがあるから出来ないのだ。
しかし、スバルに宣言したからには2900年には行く必要がある為、ミカンを元の時代に送り届けるくらいは問題ないと判断した。
ミカン「そっか…」
ミカンは悲しそうな顔をしていたが、キウシは何もしてあげられなかった。
ミカン「あの、今更ですけど…何でアランがあんなにキウシさんを殺そうとしたのに、キウシさんはアランを殺さなかったのですか?」
ミカンは殺意むき出しにしていたアランをあえて殺さなかった事について詰め寄った。
キウシ「やっぱり不思議か?」
ミカン「…えぇ」
キウシは少し考え込むと、こう口にする。
キウシ「殺すのは簡単な事だ。でも、自分に対しての殺意ではなく誤解であるならそれを理解してあげなければ、理由も分からない。まずは話し合いからスタートラインに立たなければいけないんだ」
それを聞いたミカンは不思議そうにしていたが、キウシがむやみに人を殺す人ではないという事は理解した。
キウシの人望が厚い理由はこの考え方にもある。
誰かの考えを理解しようとし、戦いでも闘争心をむき出しにするのではなく、冷静沈着に相手を観察するスキルは時空警備隊の中で1番と言われている。
そしてミカンはふと思い出したように話を進める。
ミカン「そういえば、この島の人達は元々大きな大陸から争いを避ける為に辿り着いた人達なの。もしかしたらそこに関係してるのかも」
キウシ「何か悲しい事とかが、ここに来る前にあったという事か…」
アラン「その通りよ」
突然のアランの発言に2人は驚いた。
ミカン「あ、アラン?!いつから起きてたの!?」
アラン「あなた達が別の時代から来た辺りの話から、ずっと起きてたわよ」
そしてアランはゆっくり起き上がる。
アラン「まだ大陸に居た頃の話よ…」
アランはそのまま語り続ける。
「まだ私もイーブイで、幼い頃だったわ。人間との争いが絶え間なく続いて、お父さんはその戦いに参加していた。お母さんも人間がいなくなれば平和が来るなんて信じてた。でも、あの爆弾が使われてお父さんは戦地でそのまま死んでしまった。みんながその爆弾に逃げ惑ってる中で、私とお母さんもどこへ逃げればいいのかも分からずにひたすら逃げてたわ。でも、爆弾の煙はどんどん大陸を飲み込んで、その煙を吸った人達はどんどん倒れていき、そして私のお母さんも目の前で倒れて死んでしまったの。私は必死にお母さんが起きるまで叫ぶしかなかった。でも、生き返る事はなかったわ。次第に残ったイーブイ達の間でも争いが始まって、今の村長が生き残ったイーブイ達を引き連れて私の所に来たの。そして私とお母さんを引き離して、海にあった船の中に連れてこられた。私は死んだお母さんと離れたくはなかったけど、村長はそれを許さなかった。私に嫌でも生きろと、そう言ってたわ。そして大陸を離れて、今はここにいる」
アラン「人間の爆弾によってみんな死んじゃって、私のお父さんやお母さんも人間によって殺された。だから、あなたも人間だったから仇討ちをしようと先走ってしまったのよ」
キウシ「そうか…やはり俺個人への恨みは無かったんだな」
それを聞いて安堵したキウシは立ち上がって、アランの傍に歩み寄る。
キウシ「よく話をしてくれた。そして、よく頑張って生きて来たんだな」
そう言ってアランの頭を撫でる。
アラン「私こそごめんなさい、あなたに恨みはないのに、殺そうとして…」
キウシ「過ぎた事は無しだ。もう気にするな」
そしてアランも安心しきって、本気で戦って疲れたのもあってか、またしばらく眠りについた。
その間、キウシとミカンでは今後の事を話し合っていた。
キウシ「2900年についての話はよく分かった。とはいえ、連れて行くだけしか出来ないから、そこだけは了承してくれ」
ミカン「大丈夫。私だけでもミリアを助け出してみせる」
ミカンは必死の空元気でキウシを見つめる。
キウシ「そうか。分かった」
ミカン「でも、今思うとミリアの事には謎が多いと思ったわ。何でわざわざ警備兵を大量に動員してまで捕まえる必要があったのかしら?」
キウシ「それは、ミリアという人が何か罪を犯したからではないのか?」
それは違うとミカンは強く否定した。
ミカン「だって、私達の時代では猛獣使いで魔法も使える人間は貴重でも、自分の猛獣達が警備兵に殺されるなんておかしくないかしら?」
ミカンはミリアから聞いた限りの話をキウシに話した。
キウシ「…確かに妙だ。そのハルス王国がわざわざ命令を拒否しただけで、そのような仕打ちをするのは大袈裟すぎる」
ミカン「私もそう思ってた。でも、これだけじゃ確かめようもないし…」
キウシ「今の話を聞いて少し思ったが、そのハルス王国がもし、仕える命令ではなく、別の事をミリアに要求したという仮説なら、意地でもミリアは拒否するだろうし、警備兵も意地になってミリアを捕まえに行くだろう。」
ミカン「でも…別の事って何?」
キウシ「それが分からないから困ってるんだよな」
キウシはミカンから聞いた事実だけではミリアが警備兵に捕らわれる理由にならないと思っているが、やはり確信がない為そこから先の詮索が出来ない状況だった。
そしてキウシは深く考えた後に、ミカンにある提案をした。
キウシ「流石に元の時代に返してさよならだけで済ませる訳にはいかないな。ミリアの捕らわれた理由が判明するまでは、俺も手伝う」
ミカン「え、ホントに!?」
キウシ「事実が分かるまでな」
キウシはそう言うが、実はこの時心の底では言い知れぬ不安を抱えていた。
ミカンの話の事実と時代で起きた出来事などが、流れとして一致してない事に疑問を抱いたのもそうだが、これがもし他の時代からの干渉によるものだった場合は、時空警備隊が出動しなければならない事態だからである。
キウシ「とは言え、2人だけで行くのは少し危険ではあるか…」
ミカン「アランにも手伝ってもらうのはどう?」
キウシ「それはあまりよろしくない事ではあるが…」
しかし仮に他の時代からの干渉だった場合、現在の戦力で対処出来ない可能性もキウシは考えていた。
だがアランを別の時代に連れて行くのは時空警備隊としては良くない行動でもあった。
そこで、キウシはスバルにも宣言した未来の時代を変えないようにするのは難しいとは伝えていたので、不足の事態が起きた事にしてアランもついてきてしまった事にしようと理由を考えていた。
キウシ「アランがついてくると言ったら、そうしよう」
ミカン「うん、分かった」
その夜、アランも目を覚まし、キウシはアランにミカンを元の時代に戻してミリアの救助を手伝う事を伝え、アランも来るかどうかを聞くと、「もちろん行くわ」と即答された。
アラン「ミカンは私の大事な家族みたいなものよ。妹のような存在で、私が絶対守らなければならないわ。1人で危険な目に合わせる訳にはいかないのよ」
アランの決意は固く、キウシもそれに納得した。
ミカン「お姉ちゃん…」
これ以降、ミカンはアランをお姉ちゃんと呼ぶようになった。
そしてキウシと戦った時に折れてしまった刀があるが、偶然にもキウシが自分の端末に、刀の製作工程が記載されてる本のデータを入れていた事で、折れた刀を1度溶かして鉄に戻し、叩き直して元の刀を作り出す事が出来た。
それでも耐久性は落ちてるとキウシは思っているので、アランにはあくまで仮として使ってくれと伝えた。
また、補給の問題などもあって時空警備隊の基地に戻ろうかと思っていたが、アランやミカンを連れていくと面倒事になると思った為、何とか自力で2900年にタイムワープ出来ないかと考えていた。
キウシ「…そういえば、ここは俺から見たら未来の世界なんだよな。だとしたら、端末の操作を少しいじれば出来るか…?」
普段は過去から自分達の時代へ戻る為に端末を操作しているが、現在は未来に居る状況なので、それを利用して2900年に行けないかと端末をいじっていた。
いろいろいじってた結果、2900年に自力でタイムワープ出来そうな感じになっていた。
キウシ「後は運だな…」
そしてキウシ達は出発に向けて準備を進め、早めに眠りについた。
翌朝、アランは村長にミカン達について行く事を告げて、村を後にした。
村長も特にアランを咎める事もなく、普通に送り出してくれたのだった。
アラン「さて、これでいつでも行けるわよ」
キウシ「とはいえ、実際行けるかどうかはまだ分からないぞ。後は成功するのを祈っててくれ」
ミカン「…待ってて、ミリア…」
キウシは端末を起動し、ワープを開始した。
時は戻り西暦2900年、無事にハルス王国に辿り着いたキウシ達は、1度人気がない場所へと身を隠していた。
キウシ「ミカンの話では、ミリアとミカンは一緒に居た事が知られているから、ミカンが警備兵に見つかると危ないんだよな?」
ミカン「うん、ミリアはそう言ってた」
アラン「ならミカンは隠れながら行くとして、あとはミリアの居場所をどうやって突き止めるかよね」
キウシ達が悩みに悩んでいたところ、偶然にも近くに警備兵がいる事にキウシが気づいた。
キウシ「だったら、直接あいつらから聞き出すのはどうだ?」
アラン「…まさか、警備兵を拉致するの?」
ミリアへの詳しい情報が無いだけでなく、この時代に関する情報も不足している為、キウシはそれをまとめて警備兵から聞き出そうとしているのだ。
ミカン「でも、どうやって?」
キウシ「俺に考えがある」
そう言ってキウシ達は警備兵を先回りするように動き、警備兵が人気のない場所に差し掛かった所で襲撃を企てた。
アラン「相手は2人居るけど、どうする?」
キウシ「片方は俺に任せてくれ。アランはもう片方を気絶させるだけでいい」
アラン「なら刀の鞘は抜かずに首元を狙うわ」
そして警備兵が人気のない場所を通っていたところで、キウシが仕掛ける。
キウシは普通に警備兵に近寄り、声をかける。
キウシ「警備兵さん、ちょっといいかな?」
「あ?なんだお前?」
当たり前だが、警備兵はやはりこの場所では位が高いのか、結構強気で生意気な態度だったりする。
キウシ「君達が捕まえたミリアについて聞きたいんだけど、いいかな?」
それを聞いた警備兵2人は、咄嗟にキウシの服を掴む。
「その事を何故知ってるのか知らないが、知ってるなら捕まえるまでだ」
しかしキウシはそれに動じず、すかさずVYモードに姿を変えて、1人をエスパー技で壁に吹き飛ばした。
そしてそれを見ていたもう1人の警備兵は、抵抗を開始したキウシを殺そうとしたが、背後からアランが刀の鞘で警備兵の首元に打撃を加えると、もう1人の警備兵は気絶した。
アラン「片付けたわね」
キウシ「さて、話を聞かせてもらおうか」
「な、何なんだお前達は……」
気絶を間逃れてキウシに吹き飛ばされた警備兵は、自分の身に何が起こったのかも分からず、体もキウシのエスパー技によって動けずにいた。
ミカン「あなた、私の事覚えてるわよね?」
アランの背後からミカンが姿を現すと、警備兵は驚いた顔をしていた。
「な、何故貴様が…一体どこに隠れていたんだ…」
ミカン「答えなさい!ミリアはどこなの!?」
ミカンが怒鳴り、警備兵は自分が抵抗すれば危険と感じて観念したのか、話し始める。
「あいつは今頃…城の地下牢にいるだろうよ。俺らは見回りだから詳しくは知らんが、そこまで連れて行ったのは見た。ほんとにそれだけだ」
ミカンはそれでも情報不足だと思って怒り心頭だったが、アランに落ち着かされてすかさずキウシも警備兵に尋ねる。
キウシ「なあ、お前ら警備兵は、あのハルスという奴に忠誠を誓っているんか?」
キウシの話した質問にアランとミカンはポカンとしていた。
つづく