今日の鹿児島は曇り、と言うよりは灰の曇り。
桜島から出た灰が鹿児島市内に降り注ぐ、朝から外は灰の除去車両で忙しそうだ。
僕はいつもの時間に起きてはまなすを起こす、昨日北星は早く帰ってきていたので食事とかは北星が作ってくれてる。
カシオン「おはよ、北星」
北星「おはよカシオン、朝ごはん出来たからはまなすと一緒に食べておいて!私はもう仕事に行くから!」
カシオン「今日は遅くなる?」
北星「だと思うわ、昨日のは急の変更だったからねwじゃあ行ってきます!」
カシオン「行ってらっしゃい!」
こんな毎日が続くと思っていた、続いてほしいと願った。3人で暮らす今が幸せだからだ。
でもこの幸せも簡単には手に入らなかったのだ、ここまでたどり着くのにかなりの困難が待ち受けていた。
僕と北星が出会って間もない頃…僕は北星と何度か電話するようになり、今度北星の家へ遊びに行く事にしたのだ。
そしてその前日…僕は夜の8時に来る寝台特急カシオペアで仙台から札幌へ北上する。久しぶりの札幌、あれから一ヶ月くらい経って受験やら就職やらで学校は慌ただしくてストレスが溜まってたからその鬱憤晴らしには丁度良かった。
現在の寝台特急カシオペアは既に普通の運行は終了していて、今はツアーのみの運行しかない。料金も当時に比べたら倍近く払わなければカシオペアには乗れないのだ。
寝台特急カシオペアの客室にはスイートルームはもちろん、カシオペアデラックスやカシオペアツイン、そしてカシオペアコンパートの四種類がある。細かい部分を含めたら6種類のタイプがある。
僕はそのうちのカシオペアツインで2段式ベッドタイプの部屋を選んでる。
寝台特急北斗星とは違って全ての部屋を2人で使うように設計されてるカシオペアは1人で使うにはちょっともったいないくらい。
それでも広々と使えるから荷物を置く場所にも困らないし、何よりプライベートで楽しめるからこれはこれでアリかな。
この隣に北星がいたらもっと楽しいと思ってしまう自分、そんな気分を紛らわそうとしてカバンから着替えを取り出してシャワーを浴びる事にした。
電車に揺られながらシャワーを浴びるのは何とも不思議な気持ちだが、これはこれで面白いから僕としてはアリかな。でもシャワースペースはやっぱり贅沢出来ないほど狭いので、揺れる度に体が壁にぶつかるのは仕方がなかった。
シャワーを浴び終わって部屋に戻り、僕は早めに眠りについた。このまま寝て明日の朝9時になれば北星に会える、そんな楽しみを考えながら眠りについた。
しかし楽しみが待ってる日に限ってなかなか眠れないものだ、まるで小学生みたいに。
目を開けて壁に埋め込まれてるデジタル時計を見ると05:03と表示されていた。ブラインドを上げると真っ暗で窓には水滴がたくさん付いてた。
これは間違いなく青函トンネルを通ってる証拠であった。2度寝する気もなく、とりあえず気晴らしに車内でも探検する事にした。
そして気づいたらいつの間にかラウンジに僕はいた。
外を見てもトンネルの景色で普通につまらないとか思っていたところ、よく見たら自分以外にもう1人ラウンジでトンネルをじっと見てる人がいた。
僕はその人から離れた位置に座ってトンネルをずっと見ていた。
それから10分くらいしてからだろうか、急に窓から明るい光が差し込み、僕の目を眩ます。青函トンネルを抜けたみたいだ。
この時期はまだ冬ではないので雪も降っておらず、ただ緑が見えるだけである。ここから札幌まではまだまだ時間がある、部屋に戻ってもやる事はないので食堂車の朝食時間が始まるまでラウンジで外の景色を見ていた。
そして景色を見てたら先ほどから外の景色を見ていた男の人が話しかけてきた。
???「君、そんなに景色が好きなのかい?」
カシオン「え…あ、はい。部屋に戻ってもやる事ないので、朝食が食べれる時間までここにいようかなと…」
???「そうかそうか…」
全く見知らぬ人に動揺してしまうが、函館に着くまでいろいろ話しているうちにその人とはかなり親しくなった。
この人は「アラン」さんと言うらしく、僕と同じ札幌を目指しているらしい。このラウンジには僕が来る20分くらい前からずっとトンネルを見続けていたらしい。
アラン「失礼だが、君の歳はいくつだ?」
カシオン「えっと、今年18歳になります」
アラン「そうか…と言う事はもう高校を卒業するのだな」
カシオン「はい、でもなかなか就職とか進学とかいろいろ決まらないもので…今回はその気晴らしで札幌へ行こうとしてました」
アラン「はは、やっぱり就職や進学は悩んでしまうよな」
カシオン「はい…お恥ずかしながら…」
学校の成績はそこまで悪くもないので、やろうと思えば進学も出来るし、就職先も良い場所を選べる…でもそれだけ選択肢があってもやはり悩むものだ。
友人達はみんな就職を選んでるみたいで、中には一緒に来ないかと誘って来てる人もいる。
アラン「でもまあ、君はそれ以上に気になるものがあるように私には見えるが…」
カシオン「?」
就職や進学以外に気になるもの…?
その時何故か北星の姿が頭を過ぎった。
アラン「何をするにしても何か目的がなくてはどんな事をしても結果は変わらない。君にはまず、目的を見つけるのが良いと思うがな」
カシオン「目的…?」
アラン「会社の為に働く、お金を稼ぐ、家を建てる、親に恩返しをしたい。いろいろな目的がある、それを自分で考えてみるんだ」
カシオン「…」
目的…僕の将来を決める目的、今はまだ分からないが。
アラン「誰かの為に働くのもいいな」
その時僕の体が一瞬その言葉に反応した。
何故だ?アランさんが今発した言葉が何故か何故か胸に突き刺さる。
僕はそんな事をずっと考えていた、しかし朝食時間を告げるアナウンスが流れた事でその考えを止めてしまう。
「皆様お待たせしました、ただ今食堂車では皆様のご朝食の準備が整いました。ご利用のお客様は3号車のダイニングカーへお越し下さい」
アラン「余計な事を話してしまったな、じゃあ私はこれで失礼するぞ」
そう言ってアランさんはラウンジから出ていった。
しばらく僕はラウンジでぼーっとして、朝食を思い出してようやく食堂車に移動する。
朝のランチはパンや目玉焼き、カレーライスなど軽めのメニューが多い。僕はいつもカレーライスを注文して食べている。
そして食べ終わると部屋に戻って降りる支度をする。それでもまだ札幌まで時間は3時間くらいもあり、時間潰しにいつも持ってきている小説を読んで時間を潰す。
そして気づいたら札幌に到着するアナウンスが流れる、時刻を見たら朝の10時を過ぎていた。この列車は多分かなり遅れていると察した。
北星はこの列車の到着に合わせて駅で待ってるはずだから、多分30分くらいは待たされてるかもしれないな…。
今みたいに携帯を持っていなかったこの頃はどうやって合流しようか迷っていた。予め何号車に乗ってるのかは伝えてあるので、その場所の近くで待ってると思うが…。
そして札幌駅に到着した、カシオペアに乗っていた乗客は一斉に駅に降り立つ。僕も列車から降りて早速北星を探すが、人集りが多すぎてなかなか見つけられない。
カシオペアがホームから出発して人集りが少なくなったところで、ようやく北星を見つけた。
北星「カシオン!」
カシオン「北せっ…!?」
呼ばれたかと思ったら北星は僕に向かって飛びついてきた。危うくバランスを崩すところだったが、間一髪倒れる事はなかった。
カシオン「ほ…北星、いきなり飛びついてきたら危ないよ…」
北星「だって到着の時間になっても全然カシオンが来ないんだもん!」
そんなグダグダした会話を交わしている中で、視界の中に北星によく似た人がこちらの様子を見てる事に気づく。
あの人は一体…。
つづく!