第2話
調査報告書の細部を解説すると、あらゆる時代で同じ名前の人間が嫁いてしばらくしてから行方不明になっているのだ。
それと同様な事が約30件もある事。
スバル「調査の結果によると、この嫁いで行方不明になった人物がどの時代でも同姓同名だった事が発覚してな。調査上ではその行方不明の人物は男と判明しているが、何故か顔写真などのデータが無いんだ」
カブトマン「つまり…同一人物がいろんな時代で嫁いで、その度に別の時代へ飛んでまた嫁いだと?」
広げられた調査報告書を見ると、確かにどれも同じ名前で籍として残されていた。
その資料を持ちながら田代マンが叫ぶ。
田代マン「なんだよそれ?!一夫多妻かよ?!羨まけしからんな!!」
キウシ「お前は何を言ってるんだ…」
そんなツッコミを横目に、ココが頭に手を置きながらスバルに問いかける。
ココ「ちょっと待て、おかしくないか?細かい違いならまだしも、これだけ多数にわたって行方不明になっていたなら、こちらの調査班が見つけ出せないなんてありえないのでは?」
スバル「その通りなんだ」
スバルはみんなに背中を向けながら話す。
スバル「そもそもこの調査で色々な疑問が出てきた。まず、この人物は何故いろんな時代を渡って嫁ぎを繰り返したのか?そして、その目的は何だ?」
しばらく全員で悩んだ後、ダイキが口を開く。
ダイキ「こいつってさ、嫁いだ後って子供作ってんのか?」
キウシ「ん?どういう事だ?」
ダイキ「例えばだぜ?あらゆる時代で嫁いで子供を作ってを繰り返したとして、それが例えば時代を揺るがす事になってなければ、こっちの発見は困難だと思うんだわ。俺達の調査班は、あくまで時代の変化が見られた時にしか報告が上がってこないはずだからよ」
カブトマン「言われてみれば確かに…」
時空警備隊の調査報告の流れは、全ての時代の変化を24時間体制で監視しており、変化があればその都度スバル達に報告される仕組みとなっている。
田代マン「なら、今回のやつはその時代の変化の対象とはなってないって事か?」
スバル「それだけではないと思うがな…」
スバルは真剣な表情で椅子から立ち上がる。
スバル「おそらく、俺達の調査範囲を確認する為にわざとやった可能性がある」
全員の周りの空気が一気に重くなった。
スバルの予想では、時空警備隊の調査範囲をこの人物は確認する為にわざとあらゆる時代で嫁ぎ、それを繰り返したという事だ。
ココ「回りくどい事をしやがって…」
ダイキ「だったら、今すぐこいつの嫁ぐ前の時代に飛んでとっ捕まえようぜ!」
そう言ったダイキは立ち上がって部屋から出て行った。
キウシ「お、おいおい…あいつ単独で大丈夫なのか?」
スバル「カブトマン、お前もあいつに同行してやってくれ」
カブトマン「ほいほい」
そう言うとカブトマンは立ち上がり、ダイキを追いかけるように部屋を出て行った。
残った4人は先程の議論を続けていた。
キウシ「調査範囲を知る為の囮という可能性はないか?」
スバル「それももちろんある。だからよほどの事でない限り危険はないと思うが、問題はその調査範囲を知ってどうするつもりかだ」
ココ「考えられる事としては、俺達に動きを知られない為って事か?」
田代マン「あるいは、その調査範囲を掻い潜ってこちらに攻撃を仕掛けようとか…なんてな」
スバル「…」
スバルは田代マンの言葉を聞くと黙ったまま椅子に座った。
田代マンは冗談のつもりだったが、スバルの反応を見てあれ?っと思ったらしく、戸惑いを見せる。
スバル「…俺達は、国からの任務により世界中を平和にしてきた。そして任務が少なくなってきた事により、隊員達の心に隙が生まれて調査も大丈夫という過信が生まれていたのだろう。だから今回の発見には時間を要した。俺が別命を言わなかったら発見する事は出来なかったはずだ」
キウシ「そんな馬鹿な…」
4人は今回の事態を重く受け止め始めた。
スバルの結論として、時空警備隊の調査班が油断した事により、時代の変化にはない事件などが多数存在する可能性を出してしまったのだ。
これは下手をすると時空警備隊の失態という事にもなる。
田代マン「だとしたら、ちとヤバくないか?下手したらこういう事は他にもあるかもしれんぞ?」
スバル「ココ、お前が調査班に出向いて陣頭指揮をとってくれ。田代マンはその調査班に加わって時代の調査に向かってくれ。見逃しは無しだぞ?」
ココ「分かった」
田代マン「おうよ、任せとけ」
そしてココと田代マンはすぐさま部屋を出て行った。
キウシ「そしたらスバル、俺はどうする?」
スバル「キウシには最初に言った戦力の強化を行う為の仲間を見つけ出してほしい。俺達の中で人望を掴める奴はお前くらいしかいないからな」
キウシは元々時空警備隊の6人の中では突出したものを持ち合わせてはいないが、隊員達を思いやる気持ちが強く、時空警備隊の中ではかなり慕われている存在なのである。
元々はキウシの父親がその立場であったが、子供の内からキウシも父親に似て隊員達とたくさん交流を深めいたおかげとも言える。
スバル「とはいえ、別の時代から引き抜けば歴史が狂う事にもなりかねない。なので、本来タブーと言われていたタイムマシンの機能を解放する」
そう言ってスバルは立ち上がり、キウシをタイムワープ室へ連れていく。
キウシ「機能の解放?そんなの聞いた事ないぞ?」
キウシはきょとんとしながらもスバルについて行った。
スバルとキウシはしばらく歩いた場所にあるタイムワープ室に足を運んだ。
この場所は言わずとも時空警備隊の隊員達が時代を行き来する為の部屋である。
時空警備隊の仕事道具とも言えるタイムマシン。
本来市販されているタイムマシンはタイムカプセルに入り、その表面にワームホールを作り出して時代を行き来する作りになっているが、時空警備隊用に開発されたタイムマシンは、床に機械が設置されており、事前に作り出されたワームホールに生身で入り、時代を行き来するものとなっている。
一般人がこの方法で時代を行き来すると、時空の歪みや未知の何かにより肉体がバラバラになってしまうが、超能力者の場合は生身でも何の影響もなく時代の行き来が可能なのである。
キウシ「さてスバル、その機能の解放とやらは何の事なんだ?」
スバル「キウシ、ここに設置されてるタイムマシンの装置が市販と共通してる機能は何か分かるか?」
キウシ「共通だと?時代を行き来出来るってところやろ?」
スバルはその回答を聞いてため息を吐く。
スバル「それは当たり前だろ。そうではなく、もっと別の機能だよ」
キウシはしばらく考え込むが、なかなか答えが導き出せずにいた。
スバルがそれに痺れを切らして答えを口に出す。
スバル「行き来出来る時代が過去だけってところだ」
キウシ「…あー!確かにそうだ、それは気づかんかったな!」
実は市販で出回っているタイムマシンには唯一の弱点があったのだが、それが未来へのワームホールが作り出せないというものだ。
時代が戻る分には過去に関するあらゆるデータを元に情報を補正する事ができ、それを利用してワームホールを生み出しているのだ。
しかし、未来のデータなどは一切存在せず、その補正をかける事も出来ない。
その為未来へ飛ぶ為のワームホールを作り出せなかったのである。
かつてのタイムマシンの生みの親とも言われた磯部聡も未来へ飛ぶワームホールを作り出そうとしたが、残念ながらその努力が実る事はなかった。
キウシ「しかも、仮に未来に行けたとして、その時代に何があるかも分からないで未知の領域に突撃しろなんて、普通の人なら誰も行きたがらないだろうな」
スバル「その通りだ。だからこそ、政府も未来へ飛ぶ事だけは許可もしてないし、何なら一般人がそれをやった場合は即座に極刑だ」
キウシ「でもよ、その話と機能の話がどう関係してるんだ?」
スバル「つまり、こういう事だよ」
スバルはワームホールの次元を作り出す装置をいじって、新たに別のワームホールを作り出した。
そして機械が指し示す時代は西暦2900年。
キウシ「…はっ?!」
キウシは愕然としていた。先程未来へ飛ぶ事自体がそもそも不可能だと言われていたのに、ワームホールの行先が未来を示していたからである。
スバル「実はな、この未来へのワームホール自体はかなり前から完成されていたんだ。それも、開発者本人の手によってな」
キウシ「嘘だろ…?」
慌てているキウシだが、スバルはすかさず話し続ける。
スバル「詳しく話してやりたいが、今は時間がない。他の4人が既に動いてくれてるように、俺達は急ぎこの真相を突き止めなければならない。キウシ、頼むが…仲間を見つけてきてくれ」
スバルのあまりに真剣な眼差しにキウシはその内心を察したのだ。
キウシ (あぁ…こいつのこの目は、マジなやつだ。相当今回はまずい事態になってるって事か)
そう思いながら、キウシはワームホールの前に立つ。
キウシ「いいかスバル、おそらくお前の事だからこの未来への扉はまだ不完全なんだろうけど、それでも俺は行ってくるさ。けど、未来の時代まで変えないようにするっていうのは難しいかもしれない。それだけは覚えておいてくれ」
スバル「あぁ、頼むぞ」
スバルはキウシに対して敬礼する。
キウシ「ありがとよ、行ってくる」
その敬礼に応え、ワームホールの方を向く。
キウシ (おそらく、ここを通って帰ってこれるかどうかは分からない。だが、今はやる事をやるだけだ)
そして決意を固めたキウシだった。
キウシ「佐藤キウシ、出撃する!」
そう言ってキウシはワームホールに飛び込んでいった。
スバル「…頼んだぞ、キウシ」
そう言ってスバルはココと田代マンの所へ向かった。
つづく