第5話
西暦3400年、アランは毎朝の日課として島のパトロールをしていた。
島の規模としては海側の外周を歩いて2時間半くらいで1周出来るので、そこまで遠い距離ではないし、大きい島という訳でもない。
一応住人はアランを含めて10数匹程度で、これでも島にたどり着く前よりかは増えているのである。
そしてアランが1周する手前の浜辺でパトロールしてたところで、砂浜に誰かが倒れているのを発見した。
突然の事でアランは慌てながらも駆け寄り話しかける。
アラン「あなた!大丈夫!?」
駆け寄って倒れていたのはイーブイだった。
死んでるかと思ったが、幸い息はしていたのでアランはイーブイを背負って村の方へ戻っていく。
そしてアランが向かった先は村長が住んでる家だった。
村長と言っても、島に辿り着いたイーブイの中で1番最年長だったという事だけで、村長でもまだ30歳を超えたくらいだった。ちなみにアランは16歳だ。
村長の「チェン・ロバート」は、島にたどり着いてしばらくした後、みんなからの推薦もあって村長に任命され、島の食料管理を主に執り行っている。
島の食料は今のところ無限にあるように見えてはいるが、再び食糧難にならないよう1人辺りの食料配分を決めて毎日渡しに行っているのだ。
そんなチェンは、アランが連れてきたイーブイにだいぶ戸惑っていた。
チェン「驚いたな…まだイーブイが生きていたとは…」
アラン「やっぱり大陸から流れ着いてきたのかしら?」
チェン「いや…いくら大陸からとは言っても、船も無しにどう来たのか分からないからなぁ…」
チェンは困り果てていた。
このイーブイがどのようにして島に辿り着いたのかも不明で、アランも同様にこのイーブイをどうするか考えていたのである。
アラン「ねえ村長、この子をこれからどうするの?」
チェン「流石に船に乗せて追い返す訳にもいかないし、かと言ってこの島の誰かに見られると、みんなも混乱するだろうからなぁ…」
チェンが心配しているのは、この島にいる住民に見知らぬイーブイが見られて変に噂されるのを恐れているのだ。
ただでさえ大陸からの戦いに逃げてきた人達の集まりであるから、その大陸からまた流れ着いてきたイーブイが凶暴であったらと噂されるだけで大混乱になるからだ。
アラン「なら、私がとりあえず自分の家に連れ帰るわ。幸い私の家はみんなとはかなり遠い位置にあるし、私くらいしか通らない道もあるから見つかりにくいと思うわ」
チェン「しかしアラン…もしその子が起きて凶暴だった場合、どうするんだ?」
アランは少し考え込んだ後に、こう告げる。
アラン「私は島を守る為に育ったのよ。もし島の脅威になるなら、容赦はしないわ」
アランの強気な目に村長は息を飲む。
そしてそれに縋るしかないと村長は思った。
チェン「そうだったな。アランが島を守る為に自分から志願してくれたんだから、今は頼らせてもらおうか」
アラン「ありがとう。でも、もし脅威がないから共存もありえるでしょうね。そうなったら…今後のトータルの食料は2.5倍で頼むわね」
この村の食料は先程説明したが、1人辺りの配分は決められており、通常の1人前より3割程少ない約7割くらいが毎日の配給である。
とは言っても、この島ではほとんど1人は何かしらの作物を持っており、配給で足りない分はそこから賄っている。
アランの場合は島を守る事もあるので作物を作る余裕があまりない。
普通の1人前を数字で表す場合なら普通の島の人は0.7、しかしアランは作物を作らない代わりに1.0というような感じだ。
そして、さっきのアランの条件は2.5なので、人が増えても他の人より余裕があるのだ。
そしてこれを要求した理由も後々判明する。
チェン「まあ分かった、迷惑かける事にもなるからそれくらいは配給しよう。明日からはその分で用意しておくから待っててくれ」
アラン「頼むわね」
そう言って、アランはイーブイを抱き上げてそのまま家に連れて帰った。
この島のほとんどの住人は砂浜に近い方で暮らしているのに対して、アランは島の真ん中に近い方の森の中で暮らしている。
その理由はアラン自身が森の中の方を好むのもあるが、島の真ん中の方が何かあった時、どの方向の砂浜でも駆けつけやすいというのがある。
そして森の中は意外と迷いやすく、アラン以外の住民は砂浜沿いに歩いて移動したりする。
アランは森の中を進み、しばらくして自分の家に辿り着いた。
家の中に入って抱き抱えていたイーブイを自分のベッドに寝かせ、アランは椅子に腰掛ける。
アラン「それにしても、この子はどこから来たのかしら…」
ミリアに突然魔法をかけられて、空高く上がった後に突然視界が真っ暗になった瞬間に、私は気を失ってしまった。
どこかに辿り着いたようで、接してる地面はすごくサラサラしてる。あと海のような波の音が聞こえる。
誰かの声が聞こえるけど、何故か起き上がれない。
ミリアのかけた魔法の影響なのか分からないけど、起き上がる事が出来ない。
意識だけが起きてて、体の自由だけが何故か効かない感じ。
ミリアと離れてどれくらいの時間が経ったか分からないし、ミリアがどうなったのかも分からないけど、きっと警備兵に捕まってしまったんだと思う。
ミリアとの出会いは突然だったけど、悪い気はしなかった。
昔のように私の飼ってくれていた主人と同じような感じがした。
だからだろうか、ミリアの名前を叫んで助けたかったと思った事が、自分でも信じられない。
もはや人間には諦めをつけてたはずなのに、今すぐ助けに行きたい。
早く…助けに……!!
ミカン「ミリア!!」
ミカンが飛び起きて目を覚ました場所は、普通の家の中のベッドの上だった。
ミカンは見たこともない光景に周りをずっとキョロキョロしていた。
そして声を聞きつけたのか、奥の部屋から誰かが入ってきた。
???「あら、気づいたのね」
ミカンの目の前には見知らぬグレイシアが立っていた。
???「突然声がしたから何かあったのかと思ってたけど、結構うなされていたのね」
ミカン「えっと…ここはどこ…?」
???「ここは私の家よ。あなたが砂浜に倒れていたから、とりあえずここに連れてきたって訳よ」
ミカンはまだ状況を飲み込めていなかった。
先程まで暗闇の街で警備兵に囲まれていたはずなのに、今では普通の家の中にいる。
自分に何が起きたのかも分からなかったのだ。
???「私はアラン。「アラン・ラングレイ」よ」
ミカン「私は…ミカンです、助けてくれて、ありがとうございます…」
そう、ミリアの魔法によって飛ばされたミカンは、なんと3400年に飛ばされてアラン達の時代に飛ばされていたのだ。
アラン「見た限りだと外傷もないから、体は大丈夫よね?お腹とか空いてない?」
ミカン「えっ…えっと……」
おどおどとしながら状況を飲み込めてないミカンだが、お腹の音が突然鳴る。
アラン「やっぱりお腹は空いてるのね」
ミカン「は…はい……」
アラン「待ってて、朝に作ったスープがまだ残ってたはずだから」
そう言って部屋の外に出ていったアラン。ミカンは起き上がってベッドの端に腰掛ける。
ふとミカンは自分の手を見つめる、先程起きた事が夢だったのかと思いたくなるくらいに。
しばらくしてアランが部屋に戻ってきた。
アランが手にしていたのはとても良い香りが漂うスープだった。
ミカンはそれをアランから受け取って、1口飲む。
そしてその美味しさに気づくと、スープをどんどん飲み干していく。
アラン「よほどお腹が空いてたのね。夕飯は多めに作るから安心しなさい」
ミカン「は、はい…ありがとうございます…」
スープを頂いて落ち着きを取り戻したミカンは、改めて自分の置かれた状況を振り返る。
ミリアと共に警備兵に囲まれていたが、ミリアの魔法によってどこかに来てしまった。
しかし来た場所が明らかに自分の居た場所とは全然違うという事。
ミカンは部屋に飾ってあったカレンダーに目をやると、そこに記載されていた西暦に驚愕する。
自分が居た西暦から約500年も飛んでいるからである。
ミカンはアランに今が西暦何年なのかと訪ねる。
アラン「変な事言うわね。今は西暦3400年よ」
ミカンの見たカレンダーの記載に間違いはなかった。
そして、自分が未来に飛ばされた事にここで初めて気づく。
アラン「何があったのか分からないけど、今はゆっくり休んだ方がいいわ。私もあなたに聞きたい事とかもあるから、明日ゆっくり聞かせてもらうわね」
そう言ってアランは部屋から出ていった。
そしてその日は夕飯を食べて、そのまま寝るだけという何もない1日を終えた。
翌日の朝、早速アランに起こされたミカンは、リビングのテーブルに一緒に座って話をしていた。
ミカンは自分が別の時代から来た事だけは隠して、自分にも何が起きたかは分からないとアランには伝えた。
アラン「突然意識を失って、気づいたらここにいた…そういう事ね?」
ミカン「はい。私も記憶が曖昧で、何が起こったのか覚えてないんです」
そう聞くとアランは、ひとまず敵意が無い事だけを再確認してきて、ミカンも敵意は無いと断言した。
それを聞いたアランも、それ以上詰め寄る事はなく、この島について色々話をしてくれた。
一通りの説明を受けた後、ミカンはとりあえずアランと同居する事になり、しばらく生活を共にするのであった。
アランから色々教わりつつ、島の生活に馴染んでいくミカン。
アラン達がこの島に来た経緯や、それに至るまでに起きた出来事も全部聞き、ミカンは自分の未来ではそのようなことが起きてたと思うとゾッとしていた。
何故なら自分もイーブイの身であるから、もしこの時代に生きていたら危険な目にあってたからだ。
アランが島の住民に上手く誤魔化して説明してくれた事で、ミカンは島での交流も慣れていった。
やがてアランとも打ち解けて、気づけば慣れ親しんで呼び合う仲までなっていた。
ミカン「ねえアラン、私ってそのうち進化とかするのかな?」
アラン「どうかしらねぇ…、別に嫌だったら進化しなくてもいいし、進化しなきゃ何も出来ないって事はないからね。私も成行きで進化したような感じだからね」
ミカン「私がもし進化するなら、アランのようにはなりたいかな」
アラン「やめときなさい、グレイシアだと色々難しい部分もあるから、意外と大変よ」
ミカン「そう?」
そんな雑談しながら1ヶ月以上過ごしてたある日の朝の事だった。
ミカンがそろそろ起きようとしてた時に突然ドーン!という轟音が響き渡った。
明らかに何かが落ちた音で、その音にアランも飛び起きた。
アラン「今の音は何?!」
ミカン「分からない、でもあっちの方から聞こえたよ!」
アランとミカンは急いで音の方へ向かっていった。
その途中に住んでる住民も音の方とは反対の方向へ向かって避難させつつ進んでいった。
そして辿り着いた先は砂浜だった。
当たりは砂煙や土煙が入り交じった状態で何も見えない状況だった。
アラン「ここに何が落ちたの……?」
アランはすかさず二足歩行立ちになり、自分が背に背負っている刀を抜き、すぐに構えていた。
ちなみに二足歩行の練習もアランはグレイシアに進化してからずっとやってたのでこの芸当が出来る。
そしてミカンはアランから危険だから離れてと言われており、砂浜の近くの茂みに隠れていた。
そして、しばらくすると砂煙も土煙も落ち着き、その中に何かがいるのが見えてきたのだった。
つづく